研究実績の概要 |
日本の油脂は輸入に大きく依存しており、油脂自給率の向上は急務課題である。日本の国土を考えると広大な農地を開拓し、油糧作物の生産拡大は望ましくなく、陸上植物への依存だけでなく、幅広く油脂資源を確保しておくことが必要であり、本研究ではバイオマス由来の糖を資化して細胞内に油脂を蓄積する油脂酵母による油脂生産に注目している。油脂酵母Lipomyces starkeyiは、未利用木質系バイオマス由来のグルコースやキシロースなどの糖を資化して、細胞内に油脂(トリアシルグリセロール, TAG)を脂肪球に75%以上蓄積できるユニークな酵母である。L. starkeyiを産業利用し、食料廃棄物などから「イーストオイル」を生産することによって,上記の課題克服を目指している。そのための基盤として、L. starkeyiが油脂を蓄積する詳細な機構を理解することは重要である。そこで本研究では第一に油脂合成・分解に関与する遺伝子の発現解析を行った。 脂肪酸合成経路の遺伝子(ACL1, ACC1, FAS1, FAS2)の発現量は対数増殖期初期に一過的に著しく上昇したものの、それ以降は時間の経過と共に低下した。中性脂質脂質合成経路のジアシルグリセロールからTGAを合成する酵素の遺伝子(DGA1, LRO1)は,前述の遺伝子群ほどの大きな発現量の変化は見られなかった。油脂分解経路のTAG分解酵素遺伝子(TGL3, TGL4)の発現量は培養を通して大きな変化は見られなかったため,油脂分解は定常的に起こっており,炭素源枯渇後の油脂量の減少は分解ではなく合成量が低下することに起因すると考えられた。以上のことから、脂肪酸合成経路の遺伝子を恒常的に高発現できれば、油脂量の増加に繋がるのではないかと推察している。また、遊離脂肪酸からアシルCoAを合成する酵素の遺伝子のFAA2や、β酸化を行う酵素の遺伝子POX1, POX2, POT1は炭素源枯渇後に発現が大きく上昇し、蓄積したTAGを分解して、エネルギーを獲得していると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
形質転換システムとして、スフェロプラスト-PEG法を構築したが、遺伝子ターゲティング効率が非常に低く、目的の染色体領域でなく、ランダムに非相同的に染色体領域に遺伝子が導入される問題を有する。目的の染色体領域に相同的に遺伝子を導入するため、非相同的に遺伝子を導入する蛋白質(Ku70, Ku80, Lig4)をコードする遺伝子をクローニングし、欠失させ、相同組換え効率を上昇させた変異株を取得し、今後の解析宿主とする。 また、初年度に油脂合成に大きく関与する遺伝子としてACL1、油脂分解に大きく関与する遺伝子TGL3, TGL4を同定した。これらの遺伝子の欠失株を構築し、経時的に生育(菌体濁度及び菌体数)、グルコース消費、油脂生産、油脂含有率、油脂変換率を測定し、油脂生産に関する解析を行い、油脂合成及び分解メカニズムの解明に繋げていく。
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