研究課題
酵母には、利用しやすい窒素源(アンモニア、グルタミン酸等)を含む環境下では、利用しにくい窒素源(分岐鎖アミノ酸等)の利用・取り込みに必要な酵素やトランスポーターの発現が抑制される窒素源カタボライト抑制という機構が存在する。分裂酵母の分岐鎖アミノ酸要求性変異株(eca39Δ株)はグルタミン酸を含む最小培地では窒素源カタボライト抑制が働くため、分岐鎖アミノ酸が培地に含まれていてもそれらを取り込むことができず生育不可能になる。しかしながら、同様の培地において野生株の近傍にて培養すると、野生株から何らかの物質(分泌ファクター)が分泌され、分岐鎖アミノ酸の取り込み能が回復することにより生育が可能となる「適応生育」現象が見出されていた。これまでに我々は、分泌ファクターの一つとして10-hydroxy-8-octadecenoic acidが含まれることを確認していたが、本年度はさらなる分離および絶対立体配置を含む構造の同定を試み、フェロモン様のナノモルレベルの極低濃度で作用する不飽和脂肪酸2種(10(R)-hydroxy-8(Z)-octadecenoic acidおよび10(R)-acetoxy-8(Z)-octadecenoic acid)を同定し、それらをNitrogen Signaling Factors (NSFs)と命名した。これらの分泌ファクターの全合成にも成功し、また、類縁体の合成も行った。構造類縁体および市販の脂肪酸ライブラリーのスクリーニングの結果、C-8の二重結合およびC-10のR体のアセトキシ基あるいはヒドロキシ基が適応生育誘導活性に必須であることがわかった。また、この適応生育現象にアミノ酸トランスポーターをコードするagp3+が関与することがわかった。
2: おおむね順調に進展している
分泌ファクター2種の構造を同定した。また全合成にも成功し、類縁体も数種類合成できた。類縁体や市販の脂肪酸ライブラリーをスクリーニングすることで、構造活性相関解析も行った。適応生育に関わるアミノ酸トランスポーターも同定した。以上のことより、本研究課題は計画通り順調に進捗していると評価した。
分泌ファクターを同定できたことから、今後は、分泌ファクターによる代謝・遺伝子発現量変化についての解析や分泌ファクターの受容体および受容後のシグナル経路に関与する因子のスクリーニング、分泌ファクターの生産条件および生産性の検証を行う予定である。
分泌ファクターの作用機序の詳細を解明するために外注による解析を計画していたが、サンプル調製が間に合わなかったため。
作用機序解析は引き続き次年度も行っていくので、その費用に充てる予定。
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Scientific Reports
巻: 6 ページ: 20856
10.1038/srep20856
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