研究実績の概要 |
我々はこれまでに、分裂酵母において資化しやすい窒素源(グルタミン酸等)の存在下で窒素源カタボライト抑制機構が働いているにも関わらず、資化しにくい窒素源(分岐鎖アミノ酸等)の利用ができるように窒素代謝を変化させる分裂酵母どうしの細胞間コミュニケーションが存在していることを示してきた。さらに、このコミュニケーションには分裂酵母から分泌される窒素源シグナル因子(Nitrogen Signaling Factor, NSF)が必要であることを見出し、NSFとして脂肪酸化合物2つを同定した。今年度はNSFの細胞毒性を検討した。NSF は高濃度ではeca39Δ株の適応生育を誘導できなかった。動的光散乱法により高濃度のNSFは溶液中でミセルを形成していることがわかったので、このために細胞内にNSFが入りにくくなり、あるいは作用しにくくなり適応生育誘導ができなくなったのであろうと示唆された。実際に、100 μg/mLの高濃度でも分裂酵母野生株や出芽酵母野生株に対する毒性はみられなかった。また、分裂酵母培養液上清の酢酸エチル抽出物(ここにはNSFを含む)をつかい、様々な放線菌が感受性を示すかどうかを試験したが、顕著に感受性を示すものは見出せなかった。窒素代謝を変化させる細胞間コミュニケーションは分裂酵母(S. pombe)間で発見され、分裂酵母―出芽酵母(S. cerevisiae)間では観察できない。そこで、「分裂酵母」に分類される別の種であるS. japonicusを入手し細胞間コミュニケーションの存在を確認したが、S. pombe-S. japonicus間でも窒素代謝を変化させる細胞間コミュニケーションは観察されなかった。
|