研究課題/領域番号 |
15K07378
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研究機関 | 株式会社豊田中央研究所 |
研究代表者 |
松山 崇 株式会社豊田中央研究所, 社会システム研究領域 健康創出プログラム, 主任研究員 (90394882)
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研究分担者 |
井沢 真吾 京都工芸繊維大学, 応用生物学系, 准教授 (10273517)
北川 孝雄 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教(特命) (20614928)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 遺伝子発現 / ターミネーター / 出芽酵母 / RNA結合タンパク質 |
研究実績の概要 |
・他の文献において網羅的に同定されたNab6pが結合するmRNAのターミネーター領域をTDH3プロモーターとGFP遺伝子の下流に配置して出芽酵母のゲノムに遺伝子導入し、各ターミネーター株を作製した。これらの株においてNAB6遺伝子とPAP1遺伝子を過剰発現させて、GFP蛍光を指標として、目的タンパク質の生産量の増減に影響を与える活性を測定した。その結果、11種類のターミネーター領域が目的タンパク質生産量を高めること、これらのターミネーター領域はすべて、DIT1ターミネーターで同定されたcis配列GUUCG/Uを持つことが判明した。 ・W303-1Aを親株とし、TDH3プロモーターとGFPレポーター遺伝子の下流にターミネーター領域を配置した用いたアッセイ系において、野生型DIT1ターミネーターと比較して高い活性を有する変異を集積した変異型DIT1ターミネーター、DIT1t-d22の特性を詳細に調べた。プロモーターだけをTDH3プロモーターからACT1プロモーターと入れ替えた場合でも、野生型DIT1ターミネーターと比較して、DIT1t-d22は高い活性を示した。次に、レポーター遺伝子だけをGFPからRFP(mKO2)と入れ替えた場合でも、同様にDIT1t-d22は高い活性を示した。さらに、親株だけをA451またはTDO2と入れ替えた場合でも、同様にDIT1t-d22は高い活性を示した。以上の結果より、様々な条件下において、変異型DIT1t-d22は野生型DIT1tと比較して高い活性を有していた。 ・NAB6遺伝子とPAP1遺伝子の過剰発現によって、DIT1ターミネーター上流に配置した目的遺伝子のタンパク質生産量を2.5倍以上高めることができる一方で、生育が悪くなることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・Nab6pと3'-UTRのcis配列GUUCG/Uの結合をハブとした遺伝子の発現制御ネットワークが存在するという作業仮説を部分的に明らかにすることができた。RNA結合性タンパク質を介して、特定のタンパク質の生産量を増加させる仕組みは、これまでほとんど知られておらず、意義深いと考えている。また、今回同定された11種類の遺伝子のうち6種類が細胞壁に関わる遺伝子であり、DIT1遺伝子も胞子の細胞壁の合成に関わる遺伝子であることから、NAB6遺伝子が細胞壁成分のグローバルな調節因子であることを示唆しており、解明すべき新たな問題を明らかにした。 ・NAB6遺伝子とPAP1遺伝子の過剰発現は、目的タンパク質の増産という正の効果だけでなく生育阻害という負の効果をもたらすことが明らかになったことは、実用化に向けての課題が一つ明確になったという点で意義深い。 ・その一方、DIT1ターミネーターの変異による活性の向上は、最大で野生型DIT1ターミネーターの1.5倍と効果は小さいものの、生育には悪影響を与えないことも判明した。加えて、プロモーター、目的遺伝子、親株などを変えた場合でも、改良効果は有効であった。以上の結果より、出芽酵母の代謝工学的な分子育種や目的タンパク質の生産といった当面の実用化にはターミネーターの改良が有効な手段であることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
・NAB6遺伝子とPAP1遺伝子の過剰発現による生育阻害効果の原因を特定するために、cDNAマイクロアレイ解析を行う。コントロール株、NAB6遺伝子過剰発現株、PAP1遺伝子過剰発現株、nab6破壊株、NAB6+PAP1遺伝子過剰発現株からそれぞれRNAを抽出し、cDNAマイクロアレイ解析に用いる。発現量が増加または減少した遺伝子群をそれぞれ分類することにより、生育阻害効果の原因を推定する。これらの結果を用いることにより、生育には影響が少なく、かつNAB6遺伝子とPAP1遺伝子の過剰発現によるタンパク質生産量は高まるような新たな株の構築を目指す。例えば、cDNAマイクロアレイ解析から特定された遺伝子の破壊や過剰発現によって、生育阻害を回避する。 ・DIT1遺伝子は出芽酵母が胞子形成する時期に特異的に発現することから、Nab6pと3'-UTRのcis配列GUUCG/Uによって、胞子形成に関与する特定の遺伝子群のタンパク質の生産量が増加し、胞子形成を促進する効果を持つ可能性が考えられた。この作業仮説を検証するために、20種類程度の胞子形成にかかわる主要な遺伝子を選抜し、各ターミネーター領域の活性を測定する。
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