研究課題/領域番号 |
15K07380
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
山下 哲 金沢大学, 物質化学系, 准教授 (70361186)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 脂溶性有用物質 |
研究実績の概要 |
本研究はゴマ油に含まれる抗酸化能の極めて高いリグナンであるセサミノールを,現在は有効利用されていないゴマ絞り粕に存在する難分解性セサミノール配糖体から,高効率で回収するための新規酵素PSTGの分子解析を行っている. 本年度は前年度に結晶化条件を発見したPSTGの条件最適化とX線回折実験に用いるための結晶作製を継続した.結晶化条件最適化には非イオン性界面活性剤の少量添加が有効であることを明らかにし,中でもアルキルグリコシド型の界面活性剤の添加により,良好なサイズ(0.1-0.2mm)の単結晶が得られることを確認した.この単結晶を利用し,ホームソースでのX線回折実験を行った結果,タンパク質結晶に由来する回折スポットが確認され,今回成長させた結晶がPSTG由来のものである確証が得られ,また構造解析に必要なデータ収集が可能であることが実証された. 以上の構造学的実験と並行して,前年度に着手した高活性型酵素創出を継続した.変異誘発処理を施した親株のコロニー3000個から,糖遊離活性に基づくスクリーニングを3次選抜まで行った結果,親株に比較してPSTGの活性が13.5倍まで増大した変異株を単離することに成功した.同変異株が高活性を示す原因を探るために,親株と変異株のPSTG周辺遺伝子の配列決定を行ったところ,予想外にPSTG遺伝子もしくはPSTG遺伝子周辺の関連遺伝子への変異導入は認められなかった.しかしながら,この操作によって親株のゲノム上にPSTGを含むオペロン構造が存在し,さらにはPSTG遺伝子に隣接して,PSTGと配列相同性を示す新たな遺伝子を発見した.驚くべきことに,同隣接遺伝子を大腸菌で発現させたところ,PSTGよりもさらにセサミノール配糖体に特異性の高い新規酵素タンパク質が発現した.このことから,同タンパク質をPSTG2と命名し,本酵素の分子解析も行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はPSTGの構造学的研究において,結晶化条件の最適化による良質な結晶の作製を継続した.その結果,結晶化ドロップへのアルキルグルコシド型の界面活性剤の少量添加が最も効果的であることが明らかになり,さらにオクチルグルコシドまたはヘプチルチオグルコシドの添加により,構造解析に適したサイズ(0.1-0.2mm)の単結晶が再現性良く得られることが確認された.これらの結晶を用いて,所属部局に配備されているホームソースの単結晶構造解析システムにより,X線回折実験を行った.その結果,タンパク質結晶に由来する回折スポットを確認することに成功した.現在はホームソースでの位相決定を目指し,重原子同型置換体の探索を開始している. 本年度に予定されていたPSTGの改変による高活性化型酵素創出については,親株であるPaenibacillus細胞への突然変異誘発と菌体レベルでの酵素活性の力価を指標として,これまでに選抜していた変異株に対し,一連の作業を繰り返すことにより,さらなる高活性化株の選抜を行った.その結果,親株と比較して基質からの糖遊離活性が13.5倍まで上昇した変異株を得た.本変異株の活性上昇の原因を特定するために,PaenibacillusゲノムのPSTG周辺遺伝子の解析を行ったが,予想と反して有意な変異は見出されなかったため,今回の高活性化はPSTGおよび関連遺伝子の変異によるものではなく,ゲノム上の他の遺伝子変異によるPSTG代謝活性の上昇であると結論付けた.この遺伝子解析によって,PSTGが周辺遺伝子群とオペロンを形成していることが初めて明らかとなった.さらに,PSTGと隣接遺伝子が相同性を示すことが見出され,この新規遺伝子がPSTGよりも有用な酵素をコードすることが示された.この成果により,更なるセサミノール生産の効率化が期待される.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策として,天然型PSTGの結晶のX線回折実験を継続して進め,さらに高分解能のデータを収集するために,放射光施設での高輝度X線源による回折実験を行う.構造決定に必要なデータ収集を完了し,既知の構造で最もPSTGに近いと予想されるβ-D-グルコシダーゼをサーチモデルとして,分子置換法による位相決定を試みる.同時に,PSTG重原子同型置換体の回折実験も行い,重原子同型置換法による構造解析を行う. PSTGの高活性化については,突然変異誘発によりPSTG遺伝子に変異導入された菌株が選抜されなかった事実を受け,上記の結晶構造に基づく部位特異的変異導入に方針を転換する.PSTGそのものではないが,Paenibacillusゲノム解析から得られた情報により,PSTGの高活性型ホモログともいえるPSTG2の発見と単離がなされた.この新規酵素も予備的に精製をしており,PSTGと同様に結晶化が可能であると予想する.したがって,PSTG2の結晶構造解析も推進し,両者の立体構造を比較することによって,セサミノール配糖体分解に関する構造学的な知見が得られることが期待される. 研究計画の最後にある「PSTGを固定したバイオリアクターによる連続的なセサミノール生産系確立」に関しては,精製PSTGを利用し,固定化酵素によるセサミノール生産が可能であることを確認した.今後は連続的な生産をラボスケールのリアクターで行うために,固定化酵素の調製条件の最適化を行う.また,今年度の研究で新規に発見したPSTG2は,PSTGの基質分解反応の律速となっているβ-1,2-グルコシド結合の切断に特異性が高いことがわかったため,両酵素を混合した固定化酵素を調製することにより,より効率性の高い系の構築を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度計画中に,申請者はバイオリアクターによる連続的なセサミノール生産のため,ペリスタティックポンプ(GEヘルスケア・ジャパン社製)の購入を予定していたが,現在の所属部局である金沢大学に配備されている同等品を代用して検討しているため,購入費が抑えられている.その他の消耗品などに関しては概ね予定通りの物品を購入しており,共同研究者である東北大学の中山亨教授との打ち合わせや,情報収集のための学会参加に関しても予定額内で使用した.しかし,タンパク質の結晶構造解析のため,つくばなどの放射光施設への旅費は現在のところ使用していない.さらに,目的タンパク質の結晶構造解析が完了していないため,今年度は論文投稿がなく,「英文校正および論文投稿料」として予定されている予算を使用していない.以上より,次年度使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度においては,結晶構造解析のため,放射光施設への旅費がさらに必要になると考えられる.また,成果発表のため,学会参加のための旅費も必要になる.設備品に関しては,現在の部局に配備されているもので研究課題を遂行できると判断しているため,購入予定はない.消耗品については,結晶化に関連するプラスチック用品等を購入する予定であるが,突然変異導入などに用いる高額な遺伝子試薬などの購入予定はない.本年度計画中に新規に発見された高機能型PSTG2についての成果発表などについて,引き続き東北大学工学部の共同研究者らとの研究打ち合わせと研究試料のやり取りが不可欠であり,旅費やその他の費用の追加的な使用が見込まれる.
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