研究課題/領域番号 |
15K07381
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
門倉 広 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (70224558)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ジスルフィド結合 / 哺乳動物 / 膵臓 / 小胞体 / PDI |
研究実績の概要 |
前年度、分泌タンパク質を大量に生産する膵臓で、特に強く発現しているPDIファミリー酵素であるPDIpの機能を解明するため、PDIpとその基質の複合体を膵臓から単離・精製し、質量分析により、PDIpと複合体を形成するタンパク質を網羅的に同定した。本年度は、PDIpに関して解析を進め、次の知見を得た。1)特異的な抗体を利用した解析から、PDIpは膵臓ではホルモンを産生する内分泌細胞では発現しておらず、消化酵素を産生する外分泌細胞で強く発現しているが、胃、小腸、大腸でも発現が認められた。2)ジスルフィド結合形成の反応過程では、基質である分泌タンパク質と酵素が分子間ジスルフィド結合で連結した、共有結合中間体が形成される。共免疫沈降実験から、膵臓中でPDIpは、エラスターゼ、キモトリプシン、α-アミラーゼなどの消化酵素と分子間のジスルフィド結合を介して直接相互作用することが判明した。3) 消化酵素を発現しない哺乳動物培養細胞でプラスミドからエラスターゼを発現させると、エラスターゼ(正確にはその前駆体であるプロエラスターゼ)は細胞内で凝集体を形成した。一方、PDIpを共発現させると凝集体の形成が抑制され、その一部が培養液中へと分泌した。以上の結果から、PDIpは消化酵素を産生する組織で特異的に発現し、消化酵素と分子間のジスルフィド結合を介して相互作用すること、更に、エラスターゼ前駆体の凝集体形成を抑制する働きを持つことが判明した。 以上のほか、小胞体ストレスセンサーの1つであるIRE1αは膵臓β細胞中でPDIファミリータンパク質の発現量の維持に働いていることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、主に、2つのアプローチによって研究を進めている。第1のアプローチでは膵臓で高発現しているPDIファミリータンパク質の生理的な基質を同定することによって分泌タンパク質を大量に生産する膵臓におけるジスルフィド形成システムを理解することを目的にしている。平成28年度には、膵臓で特異的に発現しているPDIpは消化酵素を産生する組織で特異的に発現し、消化酵素と分子間のジスルフィド結合を介して相互作用すること、更に、エラスターゼ前駆体の凝集体形成を抑制する働きを持つことが判明した。よって、PDIpは消化酵素の生合成過程で働く新規の因子であることが強く示唆された。これは、膵臓で高発現しているPDIファミリータンパク質であるPDIpの生理機能の解明に向けた大きな前進である。第2のアプローチでは、低酸素条件下ジスルフィド結合形成に働くシステムを理解するためにVEGF-FLAGと共有結合中間体を形成する酵素の同定を試みた。VEGFは二量体を形成して初めて活性型になる。よって、二量体形成を指標にフォールディングを評価することができる。HeLa細胞中でVEGF-FLAG をプラスミドから発現させると、好気的条件下では、VEGF-FLAGは二量体を形成したが、嫌気的条件下では、VEGF-FLAGは二量体を形成できなかった。先述したようにマウス個体中では、VEGFは嫌気条件下でも正しく折りたたまれて機能を発揮する。よって、嫌気的条件下VEGF-FLAGが正しく折りたたまれるためには、おそらくは、細胞に特異的な因子の発現が必要であることが示唆される。今後はこの情報を、VEGF-FLAGの嫌気的条件下における立体構造形成に必要な因子の探索に役立てる。
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今後の研究の推進方策 |
I. 膵臓で特異的に高発現しているPDIファミリータンパク質であるPDIpの機能の解析 1) PDIpはエラスターゼ以外の消化酵素の生合成にも関与するか?申請者らは、PDIpは膵臓中でキモトリプシン、トリプシン、α-アミラーゼなどの消化酵素のポリペプチド鎖とも直接相互作用することを見出している。これらの消化酵素とPDIpを培養細胞中で共発現することによって、これらの消化酵素の産生に対して、PDIpがどのような働きを持つのかを明らかにする。 2) PDIpはエラスターゼ(プロエラスターゼ)の正しい立体構造形成を実際に促進しているのか?エラスターゼは不活性型の前駆体として分泌された後、消化管内でトリプシンによる部分切断を受けて活性化する。ザイモグラムによる簡易解析では、エラスターゼとPDIpを共発現させた培養細胞抽出液を微量のトリプシンで処理した時に、顕著なカゼイン分解活性を示すバンドが観察された。これがエラスターゼ活性によるものかを調べるためにエラスターゼ特異的合成基質を利用したアッセイをおこなう。 II.VEGFと複合体を形成する因子の同定およびその機能の解析 上述したように嫌気的な条件下VEGF-FLAGが正しい構造を形成するためには、細胞特異的な因子が必要である可能性が示唆された。平成29年度は、VEGFを生産する繊維芽細胞中でVEGF-FLAGの発現を検討する。嫌気的な条件下、二量体形成を可能にする条件を見いだせたら、低酸素条件下VEGF-FLAGと相互作用する酵素を同定する。目的の因子が得られたら、当該因子がVEGFの生合成に果たす役割を解明するために、当該因子の発現をsiRNA等で抑制させた場合の影響をパルスチェイス実験等で解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
先述したように、上述の第2のアプローチでは、HeLa細胞を用いた実験で、嫌気的な条件下、VEGF-FLAGは2量体を形成できなかった。個体中では、VEGFは嫌気条件下でも正しく折りたたまれて機能を発揮することから、嫌気的条件下VEGFが正しく折りたたまれるためには、おそらくは、細胞に特異的な因子の発現が必要であると予想できる。このような予想外の結果が得られたことから、当初予定していた実験が行えなかったため、平成29年度への使用額が生じた。しかし、先述したように、この問題を解決するための方策が考えれることから、平成29年度には、平成28年度に行えなかった実験と平成29年度に予定していた実験の両方を進める予定である。
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次年度使用額の使用計画 |
これらの実験には消耗品として、汎用の薬品や器具のほか、様々な基質候補タンパク質の発現用プラスミドを作製するための、化学合成オリゴヌクレオチドが必要になる。更に、消耗品費は、タンパク質の検出に必要な抗体や、遺伝子を動物細胞にトランスフェクションするための試薬、動物細胞の培養や維持に必要な試薬や器具の購入にも、使用する。また、パルスチェイス実験に必要な、放射性アミノ酸も購入する。更に、研究成果を学会等で積極的に発表し、その場での議論を研究の発展に生かしたく、研究費は国内旅費、外国旅費としても利用する予定である。その他、論文発表のための費用を計上している。
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