哺乳動物の小胞体における分泌タンパク質の折り畳みとジスルフィド結合の形成は約20種類のPDIファミリータンパク質によって触媒される。PDIpは内分泌ホルモンや消化酵素を大量に合成している膵臓で特異的に発現しているPDIファミリータンパク質であるが、その生理的機能は未知であった。我々は平成29年度までに、PDIpに関して、1) マウス膵臓の外分泌細胞で強く発現しており、2)膵臓中でエラスターゼ、キモトリプシンなどの消化酵素と分子間のジスルフィド結合を介して直接相互作用すること、3)エラスターゼの前駆体の凝集体形成を抑制し、その細胞外への分泌を促進すること、4) PDIpの存在下生合成されたプロエラスターゼを微量のトリプシンで処理すると活性型のエラスターゼが生成することを明らかにした。また、小胞体ストレスセンサーの一つであるIRE1aは膵β細胞中でPDIファミリータンパク質の発現量の維持に働いており、その機能はプロインスリンの効率よい折り畳みに必要であることを見出し、J Cell Biol誌に報告した。 平成30年度には、PDIp以外の代表的なPDIファミリー酵素を、ヒト由来培養細胞株中でエラスターゼと共に発現させても、PDIpの機能を代替することができないことを見出した。よって、PDIpは、進化の過程で、消化酵素の一つであるエラスターゼの折り畳み過程を促進するための機能を獲得したと考えられる。PDIpに関する以上の成果をJ Biol Chem誌に公表した。 また、嫌気的な条件下VEGFが正しい構造に折り畳まれるためには、VEGFを発現する細胞に固有の因子が必要になることを示唆する結果を得た。これはVEGFの折り畳みに必要な因子を探す上で極めて重要な知見である。更に、PDIファミリータンパク質の基質を同定するための方法を総説にまとめて、Protein Sci誌に報告した。
|