研究課題/領域番号 |
15K07383
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
内山 拓 東京大学, 農学生命科学研究科, 研究員 (70450658)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | Cellulase / Processivity / HS-AFM |
研究実績の概要 |
平成27年度当初は、野生型SaCel6Bの酵素精製と、各種変異酵素の発現系構築をおこなった。10種類の変異酵素を作製し、それぞれの変異酵素の発現の有無を調べた。その結果、10種類全てで変異酵素の発現に成功したことを確認した。次に精製した野生型SaCel6Bを用いて、その酵素活性の至適温度と至適pHを求めた。実験の結果、至適温度は61度であり、至適pHは5.5であることが明らかとなった。また野生型SaCel6Bを用いて、不溶性基質であるリン酸膨潤セルロース、結晶性セルロースに対する分解活性および吸着を確認した。これらの実験結果から、SaCel6Bはエキソ型の酵素反応をおこなうセルラーゼである事が明らかとなった。次に野生型SaCel6BのHS-AFM観察をおこなった。その結果、結晶性セルロースに対する連続的な分解反応(すなわちプロセッシブな分解反応)を映像として捉えることに成功した。これらの画像を統計解析し、野生型SaCel6Bのプロセッシブな分解反応時における一分子統計解析をおこなった。統計解析の結果からは、SaCel6Bはカビ由来セルラーゼであるTrCel7Aと比較して、セルロース繊維から脱離しやすいがその分解速度は速いことが明らかとなった。一方細菌由来のCfCel6Bと比較すると、セルロース繊維から脱離しやすく、また分解速度は遅いことが明らかとなった。研究成果の一部などを、糖質加水分解酵素の研究成果としてまとめ、国外学会1件、国内学会2件で発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野生型SaCel6Bの酵素精製と、各種変異酵素の発現系構築をおこなった。構築した変異酵素は、(1)活性中心のアスパラギン酸をアスパラギンに置換し不活化した変異酵素、(2)プロセッシブな分解反応を示すために重要とされるトリプトファン2つをアラニンに置換した2種類の変異酵素、(3)基質特異的吸着に関わるとされる3つのトリプトファンをアラニンに置換した変異酵素7種類(1つのトリプトファンだけアラニンに置換したもの3種、2つのトリプトファンをアラニンに置換したダブルミュータントを3種、3つのトリプトファン全てをアラニンに置換したトリプルミュータント1種)を作製した。作製した変異酵素について、(1)、(2)について精製条件を調べた。(3)についてはトリプルミュータントの精製条件だけ調べた。(1)、(2)については基質吸着とはあまり関係のない変異であるため、野生型酵素とほぼ同じような条件での精製が可能である事が明らかとなった。一方で、(3)については基質吸着に関わる変異であるため、アフィニティーカラムクロマトグラフィーが使用できず、別の方法を模索する必要があることが明らかとなった。 野生型酵素についてはその酵素活性の至適温度と至適pHを求めた。実験の結果、至適温度は61度であり、至適pHは5.5であることが明らかとなった。また不溶性基質であるリン酸膨潤セルロース、結晶性セルロースに対する分解活性および吸着を確認し、SaCel6Bはエキソ型の酵素反応をおこなうセルラーゼである事を明らかにした。次に野生型SaCel6BのHS-AFM観察をおこなった。その結果、結晶性セルロースに対する連続的な分解反応(すなわちプロセッシブな分解反応)を映像として捉えることに成功した。これらの画像を統計解析し、野生型SaCel6Bのプロセッシブな分解反応時における一分子統計解析をおこなった。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、SaCel6B野生型酵素の結晶化条件の検討をおこなう。また大量発現系の構築に成功した、プロセッシブな分解反応に重要な働きをすると予測される芳香族アミノ酸残基をアラニンに置換した変異酵素、および結晶性セルロースへの特異的吸着に関わると予測される芳香族アミノ酸残基をアラニンに置換した変異酵素を精製する。そしてこれら変異酵素と野生型酵素のセルロースオリゴ糖、水溶性セルロース、結晶性セルロースに対する活性と、結晶性セルロースに対する吸着能の比較をおこなう。HS-AFM観察に関しては、平成27年度に野生型及び変異酵素のプロセッシブな分解反応の観察をおこなった。そこでこれらデータを整理し、引き続き一分子統計解析をおこなう。データの不足がある場合は、適宜HS-AFM観察をおこない、データの積み増しをおこなう。また変異酵素のHS-AFM観察をおこない、プロセッシブな分解反応の様子を野生型酵素と比較する。この比較には、一分子統計解析による比較も検討する。 平成29年度は、SaCel6BのX線結晶構造解析に関する仕事が中心となると予測される。SaCel6Bのリガンドフリー構造や、オリゴ糖を含む複合体の構造決定を目指していく。SaCel6B全体での結晶化が困難な場合は、セルロース吸着ドメインを外した活性ドメインだけの結晶化を目指す。活性ドメインのみのX線結晶構造では、SaCel6Bとアミノ酸相同性の高いセルラーゼ8種についての解析結果が有り、これが参考となる。
|