研究課題/領域番号 |
15K07384
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
柴田 秀樹 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (30314470)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | カルシウム / COPII小胞 / 小胞輸送 / 分泌経路 |
研究実績の概要 |
本研究は、高機能タンパク質を大量に分泌可能な培養細胞系の樹立を最終目標とし、哺乳類細胞の小胞体からゴルジ体への順行輸送を担う輸送小胞COPIIの小胞体からの出芽を調節するタンパク質の同定とその機能改変を目指している。これまでに、カルシウム結合タンパク質ALG-2がCOPIIの外被覆構成タンパク質Sec31Aに作用することを明らかにしている。本年度は、(課題1)Sec31Aに結合する新規タンパク質の探索と(課題2) ALG-2のカルシウム依存的アダプター機能を介してSec31Aと間接的に相互作用するタンパク質の探索を行なった。 まず、課題1において、酵母Two-Hybrid法を用いてSec31Aのカルボキシ末端領域に結合するタンパク質のスクリーニングに着手した。しかし、予備実験においてSec31AとALG-2を発現させた酵母の生育が不良になり、また複数のcDNAライブラリーを用いてスクリーニングを行ったが陽性クローンは取得できなかった。一方で、動物培養細胞に、Sec31Aの同様の領域を緑色蛍光タンパク質(GFP)との融合タンパク質として恒常的に発現させ抗GFP抗体で免疫沈降したところ、カルシウム依存的にALG-2の共沈降が確認された。そこで免疫沈降産物をSDS-PAGE展開後、銀染色により解析したところ、複数のタンパク質の存在が確認された。現在、質量分析によりこれらの同定を進めている。 次に、課題2において、ALG-2の相互作用タンパク質候補の中から、小胞体からゴルジ体への物質輸送への関与が報告されているTFG(Trk-fused gene)に着目し、ALG-2とのカルシウム依存的結合を確認し、その結合領域を同定した。また、GFPを融合させたTFGの生細胞解析から、ALG-2の結合領域を欠くことでTFGの小胞体のCOPII輸送小胞出芽領域への親和性が低下することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題1では、実験計画に沿って酵母Two-Hybrid法によるスクリーニングを進めたが、ヒトSec31Aのカルボキシル末端領域の発現は酵母の生育に影響を与えなかったが、ALG-2との共発現により酵母の生育が著しく悪化するという予想外の結果となった。よって、酵母Two-Hybrid法に依る新規制御タンパク質の同定は難しいと考えられ、実際にcDNAライブラリーを用いたスクリーニングでは陽性コロニーが得られなかった。しかし、Sec31Aのカルボキシル末端領域のGFP融合タンパク質を恒常発現する動物細胞は、その増殖と細胞形態などに異常は観察されず、また抗GFP抗体の免疫沈降産物中には、特異的な結合タンパク質候補と考えられる複数のバンドが検出されたことから、この実験系による新たな制御タンパク質の同定が期待できる。さらに、課題2として、ALG-2の標的タンパク質の中から小胞体からゴルジ体への順行輸送を制御するTFGについて、そのALG-2結合領域を同定した。TFGのALG-2結合領域を欠いた変異体を用いることで、TFGの機能におけるALG-2の役割が解明されることが期待される。以上のように、本研究はおおむね順調に進展している
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今後の研究の推進方策 |
複数の細胞種から、Sec31Aのカルボキシル末端領域のGFP融合タンパク質の恒常発現細胞を樹立し、抗GFP抗体による免疫沈降産物を比較する。また、この実験系では、細胞溶解条件や免疫沈降の反応条件が容易に調節できるため、カルシウムの有無および界面活性剤の濃度など種々の条件で検討を進め、Sec31Aに結合する調節因子の同定を目指す。同定後は、研究計画に沿って、その生理的役割を解明する。また、TFGについては、ALG-2のアダプター機能を介してSec31Aと会合することが期待されたが、Sec31Aと結合しているALG-2は、TFGとは結合しないことを示す結果が得られている。よって、TFGは、Sec31Aとは独立したALG-2の新たな作用点であると考えている。この視点に立って、TFGとALG-2のカルシウム依存的な複合体形成が初期分泌経路にどのような役割を担っているのかを明らかにする。具体的には、TFGの発現抑制細胞にTFGのALG-2結合領域の欠損変異体を発現させることで、TFGの小胞輸送における機能が回復されるか否かを検討する。
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