研究課題
モロニーマウス白血病ウイルス(MMLV)逆転写酵素(RT)は分子量75,000のモノマーで、5個のドメイン(Fingers、Palm、Thumb、Connection、RNase H)から成り、DNAポリメラーゼ活性とRNase H活性をもつ。両活性の活性部位はそれぞれPalmおよびRNase Hドメインに存在する。我々は大腸菌を宿主として、部位特異的変異導入により耐熱性が向上したMMLV RTを作製した。しかし、それらの耐熱化機構は不明な点が多い。本課題は、結晶構造解析と酵素化学的解析により、耐熱型MMLV RTの耐熱化機構を解明することを目的としている。平成27年度は、MMLV RTのRNase Hドメイン(I498-L671)を調製し、性状解析を行った。完全長のもの(WT)および基質結合部位を含むI593-L603あるいはG595-T605が欠失したもの(それぞれΔC1、ΔC2)に、Strep-tag(WSHPQFEK)と(His)10をそれぞれNおよびC末端に付加させたものを大腸菌で発現させ、菌体から精製した。蛍光基質を用いたRNase H活性の測定では、WTは活性を示したが、ΔC1とΔC2は活性を示さなかった。蛍光増加量から、RNase Hドメイン単独の活性はMMLV RTのそれよりも著しく低いことが示された。放射性基質を用いたRNase H活性の測定の結果、WT、ΔC1およびΔC2では鎖長が異なる7-16 塩基のバンドが同程度の強度で検出された。これは、本基質にMMLV RTを作用させたとき、14-20塩基のバンドが強く検出されたことと異なった。またΔC1とΔC2は活性を有したが、WTよりも著しく低かった。単独発現させたRNase H 領域はDNA合成活性の活性部位をもたないために、基質との親和性が低く、切断部位が不特定になったと考えられる。現在、これらの結晶構造解析を行っている。
3: やや遅れている
平成27年度の当初計画は「1.RNase H領域の生産」、「2.RNase H領域単独および鋳型プライマー(T/P)との複合体の結晶構造解析」、「3.RNase H領域の活性測定」であった。このうち、1と3については十分達成され、学会発表および論文発表を行った。一方、2についてはよい結晶が作製されなかった。現在、精製条件や結晶作製条件をいろいろと変えて取り組んでいる。
平成27年度未達課題である「RNase H領域単独および鋳型プライマー(T/P)との複合体の結晶構造解析」に集中して取り組む。これが達成されれば、当初の計画に基づき、「野生型酵素(全領域を含む全長酵素)の生産」、「WT単独およびT/Pとの複合体の結晶構造解析」、「WTと変異体(いずれも全領域を含む全長酵素)の活性測定」に取り組む。本課題の研究分担者である兒島憲二助教は当初の計画どおり、平成27年4月1日から平成28年3月31日まで米国NIHのDr. Robert Crouchの研究室に滞在し、酵母のRNase H2に酵素化学的解析を行った。兒島は、平成28年は、NIHで学んだ技術をもとに、ヒトRNase H2の酵素化学的解析に取り組む。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件)
Protein Expression and Purification
巻: 113 ページ: 44, 50
10.1016/j.pep.2015.04.012