研究課題
平成28年度は、兒島助教が米国NIHのDr. Robert Crouchの研究室で学んだ技術をもとに、ヒトRNase H2の酵素化学的解析に取り組んだ。ヒトRNase H2の酵素活性はナトリウム、カリウム、ルビジウムでは活性化され、リチウム、セシウムでは阻害されことから、カチオンの種類によりヒトRNase H2の酵素活性に対する影響が異なることが明らかとなった。また、熱失活の一次速度定数は、NaCl、KCl濃度が60 mMのとき、塩非存在下のときの半分にまで減少したことから、塩の添加によって熱失活が抑制され、安定性が高まることが示された。ヒトRNase H2の酵素活性のpHプロフィールは、活性解離基が酸性側で2つ、塩基性側で1つとしたとき、理論式によく一致した。酸性側、塩基性側の活性解離基のプロトン解離定数pKe (pKe1、pKe2)はそれぞれ7.3-7.6、8.1-8.8となり、脱プロトン化におけるエンタルピー変化は、pKe1で5 kJ/mol、pKe2で68 kJ/molとなった。 熱力学的解析により活性解離基は、酸性側がAspまたはGlu、塩基性側がLysと推定された。こられのことから、ヒトRNase H2の活性解離基は、酸性側がDEDDモチーフとして保存されているAsp34、Glu35、Asp141のいずれか2つ、塩基性側がDSKモチーフとして保存されているLys69である可能性が考えられた。平成28年度はさらに、ゲノムプロフィリング「ゲノムプロフィリング法による変異原アッセイ(Genome profiling-based mutation assay (GPMA)法」(被験物質存在下で大腸菌を培養し、大腸菌の染色体DNAに入った変異の数を、PCRで増幅させたDNAの融解温度の変化に伴う「温度勾配ゲル電気泳動」のパターンの変化で定量する方法)を、動物細胞に適用させた。
3: やや遅れている
平成28年度の当初計画は「1.WT(全領域を含む全長酵素)の生産」、「2.WT単独およびT/Pとの複合体の結晶構造解析」「3.WTと変異体(いずれも全領域を含む全長酵素)の生産と活性測定」であった。このうち、1と3については十分達成され、学会発表および論文発表を行った。一方、2については結晶が作製されなかった。現在、精製条件や結晶作製条件をいろいろと変えて取り組んでいる。平成28年度は計画外の課題としてGPMA法の動物細胞への適用に取組んだ。これについては十分達成され、論文投稿の準備が整った。
1)平成28年度未達課題である「RNase H領域単独および鋳型プライマー(T/P)との複合体の結晶構造解析」に引き続き集中して取り組む。2)リボヌクレアーゼH(RNase H)は、RNA/DNAハイブリッドのRNA鎖を切断する酵素であり、ゲノムDNAの完全性維持に寄与する。本酵素は、基質特異性に基づきI型とII型に分類される。II型のRNase H(RNase H2)は、RNA/DNAハイブリッドと二本鎖DNAに埋め込まれた1個のリボヌクレオチドを切断する活性を有する。兒島助教が留学したNIHのグループは、前者の基質を分解する活性を保持したまま、後者の基質を切断する活性を消失させる変異が見出した。今年度は、反対の基質特異性を付与する変異を見出すことを目標とし、ヒトRNase H2のPhe195からIle243の領域に対して全アミノ酸スキャニング変異を導入し、大腸菌で菌体内発現させ、前者の基質を分解する活性が消失し、後者の基質を切断する活性を保持した変異体の取得を試みる。
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The Journal of Biochemistry
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10.1093/jb/mvx021
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