研究課題
飛翔時にヒトの運動時の30 倍という高い代謝率を示すショウジョウバエは、ヒト疾患に関わる遺伝子の70%以上を持つことから、エネルギー代謝機構の解析や脂質異常症に対する治療、創薬に向けた研究に適したモデル生物である。我々はショウジョウバエ変異体を用いてエネルギー代謝機構を解析する中で、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1(CPT1)を欠損したショウジョウバエ個体が脂質代謝に異常を示さないことを見出した。CPT1 は貯蔵脂質であるトリアシルグリセロールに由来するアシルCoA をアシルカルニチンへ変換する酵素である。アシルCoA がミトコンドリア内膜を通過できないため、CPT1 によるアシルCoA のアシルカルニチンへの変換はβ酸化の場であるミトコンドリアへの脂肪酸の輸送に必須である。このようにCPT1 が脂肪酸のβ酸化に必須であり、哺乳類におけるCPT1 の欠損が致死性であることから、ショウジョウバエにおいてCPT1 の欠損が脂質代謝に影響しなかったことは驚きであった。このため、我々は“ショウジョウバエにはCPT1に依存せずに脂肪酸をミトコンドリアへ輸送する機構が存在するのではないか”と考えた。そこで、CPT1 に依存しない新たな脂肪酸輸送機構を明らかにするため、ショウジョウバエの分子遺伝学的手法を駆使したスクリーニングを行った。その結果、脂質代謝における役割が未知の新規輸送タンパク質の発現抑制により有意にトリアシルグリセロールの消費が減少し、この輸送タンパク質がCPT1 に依存しない脂肪酸輸送経路に関与する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
ショウジョウバエのミトコンドリでの脂肪酸代謝に関わる新規輸送タンパク質を同定した。また、この輸送タンパク質の発現抑制により、トリアシルグリセロールの代謝が低下することを見出した。
新規輸送タンパク質の全身及び筋肉、脂肪体での脂肪酸代謝における役割を、組織特異的にこのタンパク質の発現を抑制したショウジョウバエ個体のトリアシルグリセロール量を測定することで評価する。また、トリアシルグリセロールを構成する脂肪酸の鎖長は哺乳類では16以上のものが多いが、ショウジョウバエでは14以下のものが多い。そこで、ガスクロマトグラフィーにより脂肪酸分子種ごとの代謝量を評価することにより、ショウジョウバエの特徴的な脂肪酸組成と脂肪酸輸送経路との関わりを評価する。このように、ショウジョウバエ個体を用いた解析により、各組織でのこの新規輸送タンパク質の脂肪酸代謝における役割を明らかにする。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
PLOS ONE
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