研究課題/領域番号 |
15K07389
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
長尾 耕治郎 京都大学, 工学研究科, 助教 (40587325)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 脂肪酸 |
研究実績の概要 |
飛翔時にヒトの運動時の30倍という高い代謝率を示すショウジョウバエは、ヒト疾患に関わる遺伝子の70%以上を持つことから、エネルギー代謝機構の解析や脂質異常症に対する治療、創薬に向けた研究に適したモデル生物である。我々はショウジョウバエ変異体を用いてエネルギー代謝機構を解析する中で、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1(CPT1)を欠損したショウジョウバエ個体が脂質代謝に異常を示さないことを見出した。CPT1は貯蔵脂質であるトリアシルグリセロールに由来するアシルCoAをアシルカルニチンへ変換する酵素である。アシルCoAがミトコンドリア内膜を通過できないため、CPT1によるアシルCoAのアシルカルニチンへの変換はβ酸化の場であるミトコンドリアへの脂肪酸の輸送に必須である。このようにCPT1が脂肪酸のβ酸化に必須であり、哺乳類におけるCPT1の欠損が致死であることから、ショウジョウバエにおいてCPT1の欠損が脂質代謝に影響しなかったことは驚きであった。このため、我々は“ショウジョウバエにはCPT1に依存せずに脂肪酸をミトコンドリアへ輸送する機構があるのではないか”と考えた。そこで、CPT1に依存しない新たな脂肪酸輸送機構を明らかにするため、ショウジョウバエの分子遺伝学的手法を駆使したスクリーニングを行った。その結果、脂肪酸代謝における役割が未知のSLC25タンパク質の発現抑制により有意にトリアシルグリセロールの消費が減少し、このSLC25タンパク質がCPT1に依存しない脂肪酸輸送機構に関与する可能性が示唆された。さらに、筋肉組織に蓄積したトリアシルグリセロール分子種の解析から、このSLC25タンパク質が中鎖および長鎖の脂肪酸の代謝に関わることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ショウジョウバエのミトコンドリアでの脂肪酸代謝に関わるSLC25タンパク質を同定した。また、このSLC25タンパク質の筋肉特異的な発現抑制により、トリアシルグリセロールの代謝が低下することを明らかにした。また、LC-MSMS解析から、このSLC25タンパク質が代謝に関与する脂肪酸分子種を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに脂質代謝への関与を見出したSLC25タンパク質がミトコンドリアへどのように脂肪酸を輸送するのかを明らかにするため、単離ミトコンドリアへの蛍光標識脂肪酸アナログの輸送測定系を確立する。この脂肪酸輸送評価法へ脂質代謝関連遺伝子の発現抑制が与える影響を解析することで、CPT1に依存しない脂肪酸輸送機構を詳細に検討する。 細胞や組織のエネルギー需要に迅速に対応するため、脂質代謝に関わる多くのタンパク質の発現や細胞内局在、活性は厳密な制御を受けている。このため、このSLC25タンパク質もエネルギー需要による制御を受けていると推測される。そこで、インスリン刺激やエネルギー枯渇等に起因する代謝状態の変化がこのSLC25タンパク質の発現量と細胞内局在に与える影響を評価する。また、様々な代謝状態の細胞から単離したミトコンドリアを用いた脂肪酸輸送活性の測定により、翻訳後活性制御機構を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度、LC-MSMSを用いた脂質分子種解析が当初の想定以上に進んだため、重点的に脂質分析を実施した。このため、当初平成28年度に計画していた単離ミトコンドリアを用いた生化学実験の一部を平成29年度に行うことにした。このため、生化学実験用試薬の購入に予定していた経費の一部を平成29年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
単離ミトコンドリアを用いた生化学実験および培養細胞やショウジョウバエ個体を用いた機能解析に使用する試薬等の購入に使用する。
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