研究課題/領域番号 |
15K07390
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
木村 泰久 京都大学, 農学研究科, 助教 (10415143)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ABCタンパク質 / 善玉コレステロール / 高密度リポタンパク質 / HDL / ABCA1 / 脂質輸送 |
研究実績の概要 |
本研究は精製タンパク質を用いた生化学的解析を主軸とし、善玉コレステロールとして知られる高密度リポタンパク質(high density lipoprotein: HDL)の形成機構を分子レベルで明らかにしようとするものである。 末梢組織で過剰となったコレステロールはHDLの形で肝臓へと輸送される。HDLは脂質輸送体として機能する2種類のABCタンパク質(ABCA1、ABCG1)がアポリポタンパク質A-I(apoA-I)にリン脂質やコレステロールを輸送することで形成される。HDLは末梢組織からコレステロールを輸送する唯一の経路であり、血中濃度が動脈硬化発症リスクと負に相関することからHDL形成メカニズムの解明は動脈硬化症などの予防薬開発に重要である。 平成28年度の研究ではABCA1とapoA-Iの相互作用解析を中心に、ABCG1と近縁で神経組織における脂質恒常性に寄与すると予想されるABCG4についても解析を行った。このうちABCA1を用いた解析では、当初脂質2重膜構造に再構成したABCA1とapoA-Iとの相互作用を検討する予定であったが、実験系が安定せず、確実な結果を得ることが困難であった。そこで細胞膜上でABCA1とapoA-Iの相互作用を解析する新たな実験系の構築に着手し、ABCA1とapoA-Iの相互作用に重要な領域の決定を試みている。また、ABCG1と高い相同性を示し、コレステロール輸送体として機能するABCG4についても解析を開始し、ABCG4がコレステロールを認識するのに必要なモチーフ構造の同定を試みている。さらに脂質輸送体の生化学研究で培ったノウハウを提供し、細胞が細胞膜裏打ち構造を介して細胞外基質の硬さを感知する機構の解析にも参画した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度までの研究を通して、ナノディスク再構成系など脂質輸送体を解析する上で重要な手法を確立し、コレステロール輸送体のコレステロール認識部位を絞り込む実験成果を得ていることから、概ね順調に進捗していると考えている。一方でABCA1とapoA-Iの相互作用解析では研究初年度に確立した手法での検討が困難であることが明らかとなったため、再構成系ではなく細胞膜上での相互作用解析を検討する実験系開発を開始した。またコレステロール輸送体の研究ではコレステロール結合部位を推定する結果を得ていることなどから、当初予定していた計画とほぼ同様に進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度ではこれまで確立した技術を活用し、HDL形成メカニズムを明らかにする研究を遂行する。具体的な研究項目として、ABCA1とapoA-Iの相互作用機構の解析、脂質トランスポーターと薬物トランスポーターの機能分化の機構解明などを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
28年度は初年度に繰り越した資金および当初予定の交付金額をあわせて、SPR法の条件検討を行う計画であった。ほぼ予想通りの研究進捗を果たしたが、当初予定していたよりも短期間で実験系の構築が終了した。一方、当初予定していなかったタンパク質の解析にも着手したため、最終年度の培養スケールを確保するため次年度に一部繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度では当初予定していたABCA1やABCG1以外にもABCG4, ABCB1, ABCB4など多くの種類のABCタンパク質について比較検討を行う予定である。繰り越し分に関してはこれらのタンパク質を発現させるための培養関連試薬、培地、精製用消耗品に使用予定である。
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