研究課題/領域番号 |
15K07394
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
江坂 宗春 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (70151975)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アスコルビン酸 / アセロラ / アスコルビン酸ペルオキシダーゼ / ガラクツロン酸レダクターゼ / 遺伝子発現 / プロモーター解析 / 転写調節 |
研究実績の概要 |
熱帯性植物であるアセロラ(Malpighia glabra)は、他の高等植物と比較して非常に大量のアスコルビン酸を含むことが知られており、その大量集積機構が興味深い。高等植物では複数のアスコルビン酸生合成経路が報告されている。アセロラについては、これまでに主経路と考えられているマンノース経路に着目した分子生物学的な研究を行ってきている。しかし、イチゴで報告されたアスコルビン酸生合成経路であるガラクツロン酸経路やアスコルビン酸の代謝経路についての研究は、アセロラにおいて皆無である。 本研究では、最初にアスコルビン酸代謝に関わるアスコルビン酸ペルオキシダーゼの2つのcDNAをアセロラからクローニングした。次いで、アセロラにおけるアスコルビン酸ペルオキシダーゼの発現解析を行った。また、アスコルビン酸含量が異なる2つのアセロラ品種に着目し、アスコルビン酸ペルオキシダーゼに加え、マンノース経路やガラクツロン酸経路に関わる酵素について、各組織での発現解析を行った。その結果、アスコルビン酸ペルオキシダーゼは果実特異的に発現してアスコルビン酸代謝を行っている可能性が示された。また、ガラクツロン酸経路に関わるガラクツロン酸レダクターゼも果実においてアスコルビン酸生合成に関わっている可能性が示された。マンノース経路では、GDP-D-マンノースエピメラーゼとGDP-ガラクトースホスホリラーゼが、高アスコルビン酸品種の緑色果実において高い発現を示すことを確認した。最終的に、アセロラ果実においてアスコルビン酸ペルオキシダーゼとガラクツロン酸レダクターゼが発現し、機能を有している可能性を明らかにした。 他方、アセロラのマンノース経路に関わるアスコルビン酸生合成酵素のプロモーター解析についても、引き続き研究を進めており、興味ある結果を得つつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高等植物のアスコルビン酸の生理機能や、その生合成・代謝機構については、まだまだ不明な点が多い。本研究は、熱帯性植物であるアセロラ(Malpighia glabra)に、大量のアスコルビン酸が含まれることに着目し、その高集積機構を解明することを目的とした。 これまでに、高等植物では複数のアスコルビン酸生合成経路が報告されている。アセロラにおいても、それら複数のアスコルビン酸生合成経路が機能しているのか興味深い。アセロラで、イチゴで報告されたガラクツロン酸経路等のアスコルビン酸生合成副経路や、アスコルビン酸の代謝経路について着目した分子生物学的研究は、これまで皆無であった。 今回、アスコルビン酸代謝に関わるアスコルビン酸ペルオキシダーゼに着目し、アセロラのアスコルビン酸ペルオキシダーゼのcDNAクローニングおよび遺伝子発現解析を行った。また、主要なアスコルビン酸生合成系であるマンノース経路に加え、副経路であるガラクツロン酸経路に関わる酵素についても着目し、その発現解析を行った。その結果、アスコルビン酸ペルオキシダーゼは果実特異的に発現してアスコルビン酸代謝を行っている可能性を示した。また、ガラクツロン酸経路に関わるガラクツロン酸レダクターゼも、アセロラ果実においてアスコルビン酸生合成に関わっていることが示され、これまでにない新たな知見を得ることができた。さらに、マンノース経路の酵素遺伝子のプロモーター解析も行い、酵素遺伝子のプロモーター活性が、非常に高いことが示唆された。すなわち、アセロラのアスコルビン酸高集積能の機構が遺伝子レベルで語られることができるようになった。このように、本研究は、当初の計画通り進んでおり、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、アセロラのアスコルビン酸高集積能の機構が遺伝子レベルで語られることができるようになった。 そこで、今後は、まず、アセロラのアスコルビン酸生合成酵素群の遺伝子プロモーターを解析したい。特に、アセロラのアスコルビン酸生合成を律速していると考えられるGDP-ガラクトースホスホリラーゼとGDP-D-マンノースピロホスホリラーゼに着目して、アセロラでの高発現に関わるシス因子について解析したい。また、アセロラGDP-ガラクトースホスホリラーゼ遺伝子の上流域に、光応答性、および植物ホルモン応答性として知られるシス因子と相同な配列が複数確認されている。また、アセロラのGDP-D-マンノースピロホスホリラーゼのプロモーターに、これまで報告されていない新規の転写活性化シス因子の存在が示唆された。これらの配列が、実際にアスコルビン酸生合成の光調節や植物ホルモン調節等に関わっているかどうかを調べたい。 応用学的な観点から、アセロラのアスコルビン酸高集積機構を、アスコルビン酸含量の低い植物に導入し、アセロラのようなアスコルビン酸高含量植物の開発が可能かどうかを検討したい。具体的には、トマトに、アセロラのアスコルビン酸生合成酵素遺伝子を導入し、それらを過剰発現させることにより、アスコルビン酸含量の高いトマトを作出できないかどうかを検討したい。本研究により、アスコルビン酸を強化したトマトが作出できれば、得られたトマトは、栄養価が高いだけではなく、活性酸素の除去が効率的に行なわれ、老化、腐敗が防止されるとともに、種々の環境ストレスに対しても抵抗性を有する可能性がある。本研究が、アスコルビン酸強化植物の開発や、ストレス抵抗性植物の開発へと道を開くものと期待したい。
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