研究課題/領域番号 |
15K07400
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
森田 重人 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 講師 (20295637)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 種子 / 発芽 / エチレン / レドックス制御 / イネ |
研究実績の概要 |
本研究ではイネにおいて、レドックス制御に関わる酵素グルタレドキシンGRXC2;2とエチレンレセプターERS1の相互作用による発芽調節機構の解析を行っている。平成28年度には以下の3つの実験を行った。 1 GRXC2;2形質転換イネの解析:GRXC2;2過剰発現系統と抑制系統の登熟種子において、休眠誘導に関与する遺伝子ABI3とSdr4の発現を調査した。その結果、GRXC2;2の過剰発現/発現抑制により、これらの休眠関連遺伝子の発現が上昇/低下していた。またこれと一致して、エチレン応答性遺伝子ERF61とADH1の発現も上昇/低下していた。さらに、GRXC2;2抑制系統の完熟直後の種子を発芽させたところ、コントロール系統に比べ発芽率が高かったことから、休眠が弱まっていることが示された。以上の結果から、GRXC2;2はエチレンの作用を介して種子休眠を調節することで、発芽を抑制していることが示唆された。 2 GRXC2;2とERS1の相互作用の解析:ERS1がイネ細胞内でGRXC2;2と相互作用することをBiFC法により確認するため、両者をイネ培養細胞プロトプラストで発現させたが、相互作用を示す明確な蛍光は観察されなかった。各タンパク質の発現量が十分でなかった可能性や、ERS1が膜タンパク質であることが原因として考えられることから、今後コンストラクトの改良が必要と思われた。 3 形質転換イネの作出:ERS1の発芽調節における役割を明らかにするために、ERS1の発現抑制系統を作出した。具体的には、CRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いてERS1のコード領域に変異を導入した形質転換イネを作出した。得られた形質転換体 (T0世代) において、ERS1遺伝子の標的部位に変異が導入されていることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
BiFC法によるGRXC2;2とERS1の相互作用確認については、明確な結果がいまだ得られていない。前述の通り、導入したタンパク質の発現量が十分でなかった可能性や、ERS1が膜タンパク質であることが原因として考えられる。またイネ培養細胞プロトプラストでERS1とGRXC2;2を共発現させ、ERS1がGRXC2;2により酸化還元を受けるかどうかを調査する計画となっていたが、未着手である。これは上記のGRXC2;2とERS1の相互作用を確認した後、実施する計画であったためである。 また酸化還元活性を持たない変異型GRXC2;2の過剰発現系統の作出を平成28年度に計画していたが、着手していない。これはERS1の抑制系統作出を優先して実施したためである。 またERS1に対する抗体の作製については現在進行中であり、特異的な抗体はまだ得られていない。
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今後の研究の推進方策 |
GRXC2;2とERS1の相互作用確認を引き続き継続するが、タンパク質の発現量を増加させる、膜結合ドメインを除去した形でERS1を発現させるなどの改良を行い、再度実施する。これらの改良を行ってもなおBiFC法によって相互作用が確認できない場合は、共免疫沈降法による検出を試みる。具体的な実験方法としては、イネ培養細胞プロトプラストにおいて、タグを付加したGRXC2;2とERS1をそれぞれ発現させ、各タグに対する抗体を用いて免疫沈降・検出を行う。これらの実験により相互作用が確認できた後、プロトプラスト一過的発現系において、GRXC2;2によるERS1の還元を調査する。 ERS1の発現抑制系統については、順調に変異導入系統が得られたことから、平成29年度で発現抑制の確認、後代の育成・種子増殖を行い、平成30年度に発芽・初期生長を調査する。なお同系統におけるERS1の発現抑制の確認には、ERS1に対する抗体が必要となることから、抗体作製を早急に進め、特異的抗体を得る。 また平成28年度に未実施であった、酸化還元活性を持たない変異型GRXC2;2の過剰発現系統の作出を、平成29年度に実施する。当初計画から遅れているが、平成29年度中に過剰発現系統を作出し、平成30年度前半に後代の育成・種子増殖を行い、年度後半で発芽・初期成長を調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
上記の通り平成28年度は、研究計画に対して進捗がやや遅れている。そのため試薬・器具などの物品費が予定を下回る金額となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
計画よりも遅れている実験については1年遅れで実施するため、それに伴い物品費が増加する予定である。また実験の結果次第で一部研究計画を変更する可能性があり、実験手法の変更に伴う試薬・器具等の支出増加を物品費で賄う予定である。
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