研究課題/領域番号 |
15K07403
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研究機関 | 福岡県工業技術センター |
研究代表者 |
奥村 史朗 福岡県工業技術センター, 生物食品研究所, 専門研究員 (40399671)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 細胞応答 / パラスポリン / ベクリン1 |
研究実績の概要 |
がん細胞特異的毒素タンパク質であるパラスポリン1はがん細胞にアポトーシスを誘導して細胞死に至らしめるが、ヒト正常細胞由来の培養細胞に対しては毒性を示さない。パラスポリン1の受容体候補としてベクリン1が同定され、市販の抗ベクリン1抗体を用いた予備的な検討によりベクリン1が細胞膜表面に存在すること、ベクリン1の脂肪膜表面存在量と細胞のパラスポリン1感受性に相関性があること、そして抗ベクリン1抗体自体が細胞にアポトーシスを誘導することが示唆された。しかしベクリン1の細胞膜表面への局在を示す報告は現在のところなく、細胞膜表面への局在の生理的意義や機構などについては不明な点が多い。 本研究はパラスポリン1の受容体を解明すること、および、有力な受容体候補であるベクリン1に対する抗体が、PS1と同様にがん細胞をアポトーシスに誘導する現象について詳細に検討を行うことにある。2016年度は、まず、免疫沈降法による受容体探索を行ったが、非特異結合が多く受容体特定に至らなかった。次いで光架橋剤を用いた探索を検討しており、パラスポリン1に光架橋剤を修飾するための条件検討を行っている。パラスポリン1受容体候補であるベクリン1の生産については組換え体大腸菌による系でHisタグを修飾したベクリン1を得て、これを精製し、マウスによる抗体作成を行っている。この系で得たベクリン1は封入体で得られ、尿素で可溶化しているが、リフォールディング条件は見つかっておらず、不溶化した精製物を用いて検討を進めている。今後ベクリン1抗体のアフィニティ精製やベクリン1によるパラスポリン1の活性阻害試験に用いるため、可溶化ベクリン1を得る必要があり、シャペロン共発現系やGST融合型での発現を検討している。培養細胞での生産にあたってはタグなしで行っていたが、発現量が少なく精製が困難なため、Hisタグを修飾した発現系を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は諸般の事情により培養細胞実験系の再開と実験環境の構築に時間を要したため予定より若干遅れた進捗となった。2016年度は予定した通りの進捗だったが、初年度分の遅れを取り戻すには至らなかったため、全体の進行としては若干の遅れとなった。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は、現在行っている精製したベクリン1による抗ベクリン1ポリクローナル抗体の作成を進めていく。また、ヒトのベクリン1特異的なアミノ酸配列を受託合成し、これを抗原とした抗体作成についても視野に入れる。 次に、主に組換え体のベクリン1によるパラスポリン1活性の抑制を検討やベクリン1抗血清からベクリン1抗体のアフィニティ精製のために、可溶化型のベクリン1の生産を検討する。現在シャペロン共役系やGST融合タイプの発現系の構築を進めているので、これを継続していく。 また、ベクリン1ノックアウト細胞を作製し、そのノックアウト効率とパラスポリン1の細胞死誘導活性との相関について検討を行う。ベクリン1ノックアウトマウスは致死性であるが、細胞レベルではsiRNAなどの手法によりノックアウト可能であると思われる。ただし、siRNAでは完全に発現が抑制されるわけではないので、イムノブロッティングによりベクリン1発現量を定量し、パラスポリン1の細胞死誘導活性との相関を検討する。 またベクリン1についてはもともと膜タンパク質ではないことから、パラスポリン1の受容体としての適性には疑問な点もあり、ベクリン1の細胞膜上での発現について詳細に確認し、ベクリン1が受容体であることを証明する必要がある。これについてはフローサイトや蛍光顕微鏡観察等で検討を行っていき、各種培養細胞のパラスポリン1に対する感受性とベクリン1の細胞膜上での発現量との相関について検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度においては研究進捗が若干遅れたため、試薬・ディスポ実験器具類の購入が予定より少なく、次年度使用額が578千円程度生じた。2016年度は想定通りの進捗で予算も予定額以上に使用したが、初年度に生じた次年度使用額を使い切るほどではなく、最終的に388千円の次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究の進行に合わせて、試薬・ディスポ実験器具、抗体産生のための実験動物購入等に使用し、全額を使用する予定である。
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