がん細胞特異的毒素タンパク質であるパラスポリン1はがん細胞にアポトーシスを誘導して細胞死に至らしめるが、ヒト正常細胞由来の培養細胞に対しては毒性を示さない。パラスポリン1の受容体候補としてベクリン1が同定され、市販の抗ベクリン1抗体を用いた予備的な検討によりベクリン1が細胞膜表面に存在すること、ベクリン1の脂肪膜表面存在量と細胞のパラスポリン1感受性に相関性があること、そして抗ベクリン1抗体自体が細胞にアポトーシスを誘導することが示唆された。しかしベクリン1の細胞膜表面への局在を示す報告は現在のところなく、細胞膜表面への局在の生理的意義や機構などについては不明な点が多い。 本研究はパラスポリン1の受容体を解明すること、および、有力な受容体候補であるベクリン1に対する抗体が、パラスポリン1と同様にがん細胞をアポトーシスに誘導する現象について詳細に検討を行うことにあった。光架橋剤を用いた新規受容体の探索に際して、パラスポリン1作用時のカルシウム濃度が重要であることを発見し、新規受容体探索に目途がついた。また、パラスポリン1受容体候補であるベクリン1の生産および精製については組換え体大腸菌によるベクリン1をアフィニティ精製し、その細胞傷害活性を測定したが、活性は認められなかった。またこの精製ベクリン1抗体はパラスポリン1の活性阻害作用も持たなかった。培養細胞によるベクリン1の作成については生産量が少ないことからHisタグをつけた系の作成を行ったが、生産量がナノグラムオーダーで留まっており、タグ精製を行うにしても抗体を作成するには絶対量が少ないことから、培養細胞の種類の検討や発現系のベクターを検討するなど、生産量の増強に取り組んでいる。
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