本研究ではゴール形成昆虫の高いIAA生合成能の進化的獲得機構解明の基礎情報として,カイコをモデル系とし,5齢幼虫の絹糸腺を持ちいて,昆虫におけるオーキシン(インドール酢酸,IAA)生合成の機構の解明を進めてきた。その過程で,トリプトファン(Trp)→インドールアセトアルドキシム(IAOx)→インドールアセトアルデヒド(IAAld)→IAAの生合成経路を示した。この経路のうちIAOxやIAAldが中間体として見出されないという問題点に関しては,各前駆体からIAAへの見かけの変換速度をUnit/mlとして求めることにより,生成速度より代謝速度が速いことが原因であることを明らかにした。また,IAAld→IAAの変換を阻害する阻害剤IBI1存在下でもIAAldが蓄積しない原因として,IAAldのもう一つの代謝物としてインドールエタノール(IEtOH)を見出し,IBI1存在下ではIAAld→IAAからIAAld→IEtOHへの代謝の切り替えが起こっていることを見出した。さらに本年度は,IAAld→IAAを触媒する酵素を単離,同定した。本酵素の温度依存性,pH依存性,Km,Vmax等の性状を決定した。また,本酵素が触媒するステップは,カイコにおけるIAA生合成の律速段階ではないものの,本酵素のコファクター等の非酵素的な働きも含めると,本酵素単独でTrpやIAOxからIAAを生成することが出来ることを明らかにした。それと共に,それとは別に,Trp→IAOxを非酵素的に触媒する画分,IAOx→IAAを酵素酵素的に触媒する画分なども見出した。これらの反応を総合的に解析することによって,カイコにおけるIAA生産能を明らかにする必要がある。また,これらの情報をゴール形成昆虫に適用する事によって,ゴール形成昆虫における高いIAA生産能の仕組みについても解明を行いたい。
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