研究課題
ユビキノンに代表されるキノン類は、呼吸鎖電子伝達系における電子伝達担体としてはたらき、バクテリアから高等生物に至るまで幅広く分布する生理活性分子である。一方、最近の研究では、電子伝達には直接関与しないものの、ユビキノンを“補因子”として持つことで機能する「ユビキノン結合性タンパク質」の存在が幾つか示唆されている。ミトコンドリア外膜に存在する電位依存性アニオンチャンネル(VDAC)は、そうしたユビキノン結合性タンパク質の候補の一つであり、いわゆる膜透過性亢進と呼ばれるシトクロムcの細胞質への漏出など、アポトーシスの鍵現象に深く関与することが知られているが、両者の相互作用を明確に実証した例はこれまでにない。本研究では、出芽酵母ミトコンドリアを実験材料として、独自に合成したユビキノンプローブを用いた光親和性標識実験を切り口に、VDACとユビキノンの関係を明らかにすることを目的とした。ユビキノンのキノン環とイソプレン側鎖末端に、アジド基とアルキンをそれぞれ導入したユビキノンプローブ(PUQ-1あるいはPUQ-2)を合成し、これらがVDAC1に特異的に結合していることを明らかにした。さらに、プロテアーゼ限定分解によって、PUQ-1の結合部位はVDAC1のC末端付近のPhe221-Lys234に存在することを明らかにした。一方で、当該領域の保存されたアミノ酸残基をアラニン置換した出芽酵母VDAC変異体を作成したところ、光親和性標識の収率に大きな変化を与えなかった。ユビキノンとVDACの相互作用の生理的な意義を考察する目的で、出芽酵母ミトコンドリアの膜透過性亢進におけるユビキノンの影響について精査した。その結果、PUQ-1はCa2+で誘導される膜透過性亢進を低濃度で抑制した。これらの実験結果は、ユビキノンとVDAC1の相互作用を初めて直接的に実証したものであり、ユビキノンがVDACに特異的に結合することで膜透過性亢進が制御されることを示唆するものである。
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