前年度までに、数種の昆虫からクローニングしたオクトパミン受容体OAR及びチラミン受容体TARに対する殺虫性精油の作用性を調べてきた。OARには精油がほとんど作用しなかったことから、TAR(特にカイコTARの一種BmTAR1を用いて)に絞って検証を進めた。結果として、チモールとカルバクロールに僅かなTARアゴニスト作用が認められた他、チラミンのアゴニスト作用を増強させる作用(アロステリック様作用)があることを発見した。特にチモールのアロステリック様作用は顕著で、濃度依存的な応答を示した。また、ミツバチTARよりもカイコTARのほうでこの作用は強かった。他の精油にはこのような作用は見られず、チモールやカルバクロールの構造に起因していると考えられた。 他の化合物に同様のアロステリック様作用が見られるかを試験した結果、チモールには及ばないもの、生体アミンの一種シネフリンと殺虫剤アミトラズに同様の作用が認められた。殺虫剤クロルジメホルムCDMと代謝物DMCDMも試験したが、アロステリック様作用は見られなかった。ただし、通常のアンタゴニスト作用が観察された。アミトラズ、CDM、DMCDMはこれまでの研究でOARに作用することは分かっていたが、今回、TARにも作用することが分かった。 他の害虫種TARでも精油や化合物のアロステリック様作用を調べるために、アブラムシのTARクローニングを進めた。全長配列を取得するところまでは到達できたが、受容体の発現系の構築、さらにはアッセイにまで進むことが出来なかった。 今後は、アブラムシTARでの評価とカイコTARとの活性比較を行うとともに、アロステリック様作用がなぜOARではなくTARでのみ生じるのか、また、この作用が昆虫の生理・行動とどう密接に関わるのかといった点について研究を進めていく。
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