研究課題/領域番号 |
15K07417
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
福田 隆志 北里大学, 薬学部, 助教 (30348586)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | dermcidin / 抗がん剤 / スクリーニング |
研究実績の概要 |
皮膚がんの一種であるメラノーマ(悪性黒色腫)は、薬が効きにくいことや容易にリンパにより転移する等の理由から最も悪性度の高いがんと考えられている。申請者らは、このメラノーマに対しより選択的に抗がん活性を示す天然化合物 seriniquinone A を海洋由来微生物の培養液中より発見し、その標的が、皮膚細胞が特異的に生産する抗菌ペプチドの一種 dermcidin であることを世界で初めて突き止めた。そこで本研究では、この全く新しい作用点 dermcidin (DMC) を標的とした化合物を天然資源、特に海洋由来微生物から探索し、 メラノーマに対し選択性の優れた抗がん剤の開発を行うことを目的としてる。 昨年度は、DMC の発現が確認された 3 種の株を用いてDMC 高発現株の樹立を試みた。方法は合成したseriniquinone A を生育限界濃度で培地に添加し継代を繰り返した。しかしいずれの場合も高発現株の取得には至らなかった。そこでスクリーニングには別の株を用い、得られた化合物についてメラノーマを用いた評価を行うように方向転換した。 その結果、海洋由来真菌1080 株の培養液中よりメラノーマに対して 13 nM という低濃度で抗がん活性を示す化合物を発見した。本化合物の構造は各種スペクトルデータよりすでに明らかとしており、新規化合物と推定している。現在詳細な活性評価および特許取得のためのデータ取得を進めている。 また同じく海洋由来放線菌Nocardiopsis alba KM6-1 株の培養液中からisomethoxyneihumicin と命名した新規化合物を発見し、論文にて報告した。加えて海洋由来放線菌 Streptomyces sp. MA2-12株の培養液中から chlokamycin と命名した新規化合物を発見し論文投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
評価系の構築は断念したが、平行して行っていた評価系にて非常に強い活性を示す新規物質の発見に成功した。本化合物は分子量 562 分子式 C29H38O11 であり不飽和度は 11 である。本化合物の構造は各種機器データより、大きく 2 つの部分構造がエステル結合してできた大環状ラクトン化合物であると推定している。また本化合物は非常に不安定であり、メタノール中では別の化合物へと変化することが判明している。本化合物の活性は評価した 8 種のがん細胞において、その 6 種で 1 マイクロ M 以下の濃度で抗がん活性を示した。よって本化合物は薬のシーズとして非常に有望であり、今後特許取得ならびに様々ながん細胞を用いたガンパネルテストをおこなう予定である。 また今年度は本申請に関連する論文を 2 報発表することができた。(内 1 報は最終のリバイスを投稿済み)これら結果は、新しい化合物の発見を海洋由来微生物に求めた結果であり、今後ますます発展すると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
現在抗がん剤のシーズとしてもとも有望な化合物について、薬としての可能性を精査する。具体的にはガンパネルテストを用いた評価、正常細胞との活性の比較及び有機合成を利用した化合物の最適化を進める。 また平行して新たな候補化合物の探索も引き続き行いたい。その場合の一つの案として、スクリーニングの前段階に菌株の選抜を行うことで、今までにない化合物の発見の近道にすることを計画している。具体的には培養液を励起波長 240~550 nm、検出波長 390~600 nm にて網羅的に測定する。得られる二次元データを特徴的な 13 個の波長をもとに多変量解析処理を行い、他とは異なる化合物を生産している菌株を見出す。このようにして特徴付けられた菌株を優先的に用いることで、新規または新奇の化合物発見への近道とする計画である。すでに約 100 サンプルの評価を行い、他とは異なる二次代謝産物を生産している菌株を複数見出している。今後はこれら菌株の培養液を中心に活性を評価後、その活性物質の精査を行う予定である。
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