近年のメタゲノム解析により約1000種類の常在菌からなる腸内細菌叢のバランスが、宿主の代謝・免疫系をはじめ全身の健康状態に影響し、様々な疾患の発症に関連があることが明らかにされつつある。そのため望ましい腸内細菌叢を形成することは、感染症をはじめ代謝疾患など多くの疾患の予防にもつながるため、医療費を削減するという社会的意義も期待できる。健康的に望ましい腸内細菌叢を形成するためには、疾患関連菌の定着・増殖を抑制しつつ乳酸菌やビフィズス菌など宿主の健康状態を改善する菌を腸管内へ定着させる必要がある。腸上皮細胞を物理的障壁として腸管管腔内の物質が体内へと侵入することを防ぐとともに、ムチンを主成分とする粘液や様々な抗菌タンパク質、分泌型IgAを細胞頂端側から分泌することにより、管腔内の腸内細菌の定着や増殖を制御している。細菌の定着や増殖を阻害する物質についての解析は進んでいる一方、細菌叢の形成を促進的に制御する宿主の内在的因子については研究が進んでいない。ラクトフェリン(LF)は細菌から真菌まで広い菌に対して殺菌・静菌作用を持つ一方で、ビフィズス菌の増殖を促進する。我々はこれまで培養腸上皮細胞により未消化LFが取り込まれ、細胞内で分解され細胞外へと再放出されることを報告している。 本研究は、腸上皮細胞から再放出されたLF断片が腸内細菌叢制御機能や生理的機能を発揮する可能性について検討することを目的とする。最終年度である平成29年度はこれまでに引き続き培養腸上皮細胞でのラクトフェリン取り込みの経時的解析を進め、LFの細胞内輸送経路について解析した。また、ビフィズス菌が腸内で最優勢となる乳児期マウスでのLFの分解を解析したところ、成獣とは異なる分解機構があることを示唆する結果が得られた。
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