研究課題/領域番号 |
15K07430
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
田中 保 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(薬学系), 准教授 (90258301)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | リゾホスファチジン酸 / 胃粘膜防御 / 抗胃潰瘍食 / NSAIDs潰瘍 |
研究実績の概要 |
リゾホスファチジン酸(LPA)は多くの動物細胞に作用して、増殖や遊走などの細胞応答を誘導する増殖因子様リン脂質である。我々はLPAの経口投与がアスピリン誘導性の胃潰瘍症状を軽減することを見出し、そのメカニズムを探ってきた。また、この作用を利用すれば胃腸障害を軽減する食ができると考え、その可能を探ってきた。本年度はこのLPA作用を機序に持つ天然医薬品、すなわち生薬があるのではないかと考え、胃腸障害に効果を示すとされる生薬21種類について、そのLPA含量と胃潰瘍抑制効果について調べた。その結果、キキョウやシャクヤクの根の乾燥粉末のLPA含量は極めて高いことがわかった。我々は種々の食品に含まれるLPAを調べてきたが、これまでに調べた中で最も高いLPA含量を示す大豆粉末やソバ種皮粉末と比べても、キキョウのLPA含量はその50倍であった。すなわち、キキョウやシャクヤクの根の粉末はLPAを消化管管腔の上皮細胞に届ける上で、最も効果的な素材である。また、キキョウの脂質画分はアスピリン潰瘍モデルに対しても、インドメタシン潰瘍モデルに対しても胃潰瘍形成を抑制することが判明した。抗潰瘍効果をもたらすために必要なLPA標準品の量とキキョウ粉末に含まれるLPA含量との比較から、キキョウ粉末には抗胃潰瘍効果を示すに十分なLPAが含まれていることもわかった。このことはこの生薬の薬効成分にLPAが機能していることを示す証拠である。 一方、LPA2受容体を発現する胃由来培養細胞株のMKN74細胞に対するLPAの作用を調べた結果、LPAは過酸化水素誘導性のアポトーシスを抑制することがわかった。また、同じくLPA2受容体を発現するKatoIIIに対してもアポトーシス抑制効果が見られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的はNSAIDs潰瘍を食で予防する抗胃潰瘍食の創出である。これまでの検討により食品および生薬からホスファチジン酸(PA)およびリゾホスファチジン酸(LPA)を多く含む素材は見いだすことができた。また、実際にPAやLPAに富む脂質画分が急性胃潰瘍モデルにおいて、組織障害を軽減することも確認できた。しかし、NSAIDs潰瘍は通常、慢性である。我々はまだ慢性胃潰瘍モデルを作成することができておらず、これらの素材の有効性は未だ不明である。真の抗NSAIDs潰瘍食の創出のためには慢性NSAIDs潰瘍モデル動物の作成とこれを用いた検討が必要である。 一方、LPA効果のメカニズムに関し、我々は胃粘膜増強因子の1つプロスタグランジンE2産生の増強、アポトーシス抑制、ムチン産生促進を見出しているがムチン分泌メカニズムが不明のままである。これには分泌されたムチン量の測定方法が安定しないことが一因である。ムチン産生の増強に効くLPAの分子種や投与形態(前駆体のPA投与など)を明らかにしなくてはならない。
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今後の研究の推進方策 |
抗NSAIDs潰瘍食の創出には慢性NSAIDsモデルが必要である。これまでアスピリンとインドメタシンを用いた慢性潰瘍モデル作成にトライしたが、低用量で潰瘍発症がなく、高用量で重篤な粘膜損傷により死亡するといった全か無か、の状況に陥る。低用量NSAIDsと塩酸、エタノール、過酸化水素といった機序を異とする薬物との併用により慢性潰瘍モデルを作成し、これまで見出している抗NSAIDs潰瘍候補食の効果を試す。 これまでの研究により、LPAやPAの効果は高くて抑制率60%程度である。この数値を上昇させることを考える。最近、我々は植物脂質の中に新規抗アポトーシス因子を見出した。この物質単独では抗NSAIDs潰瘍効果はなかったが、LPAと併用するなどLPAの効果を増強させる可能性がある。これを試す。 培養細胞では胃由来のLPA2発現株KatoIIIの粘液分泌メカニズムの解明を行う。分泌ムチンの定量精度の向上とともに、条件を確定し、最適LPA分子種や濃度、受容体拮抗薬の効果などからこの現象を解明する。
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