研究課題
リゾホスファチジン酸(LPA)はバイタルシグナル的に作用するメディエーターである。我々は胃粘膜細胞管腔側に2型LPA受容体が発現すること、LPAに富む食品由来の脂質がNSAIDs誘導性胃潰瘍を抑制することを見出している。本年度はLPAを含む生薬のシャクヤク(根)の抗胃潰瘍効果のメカニズムの解明と、LPAあるいはPAリッチ食材の抗胃潰瘍食としての商品化を行った。絶食マウスの胃粘膜ゲル層のLPAをLC/MSにて定量したところ、総LPA濃度は2.5 μM以上であった。LPAは消化管分泌液に含まれ、常時LPA2を介して粘膜細胞に作用していると推定された。シャクヤク(根)のLPA含量は約250 nmol/g(乾燥重量)で、LPA-rich素材として見出していたキャベツの50倍である。シャクヤク根から抽出した脂質はインドメタシン誘導性のマウス胃潰瘍を有意に抑制する。ヒト胃由来MKN74細胞を用いてそのメカニズムを検討した結果、シャクヤク脂質は濃度依存的にプロスタグランジンE2の産生を増強した。この効果はGi関与の様式であり、LPA2を介していると推定された。また、シャクヤク脂質はインドメタシン誘導性の細胞障害を軽減することが染色試薬排除試験により示された。また、LPAはMKN74細胞をGi関与の様式で増殖させることも示された。慢性胃潰瘍モデルについても検討を行った。インドメタシンの単回投与(10mg/kg)、5日後、通常食で飼育すると20-30%のマウスは2日目あるいは3日目に死亡した。このとき、LPA(10 uM)を飲水に混ぜて飼育したマウスはほとんど生存していた。この差が胃粘膜保護の結果かどうかは不明であるが、LPAの胃粘膜への継続的経口投与が有効に毒性を軽減する可能性を示唆しており、今後解析を進める予定である。
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