研究課題
がんの発生や転移には慢性的な炎症が関与している。近年、不飽和脂肪酸と酸化窒素化合物(NOx)の反応で生成するニトロ化脂肪酸が抗炎症作用を示すことが報告されており、その作用にタンパク質チオールとの反応性(親電子性)が関与していることが示唆されている。親電子性物質には抗炎症作用のみならず抗がん作用を示すものが多いが、ニトロ化脂肪酸によるがん予防に関する研究は行われていない。本研究では、ニトロオレイン酸の抗がん作用について、がん細胞の増殖および細胞の運動(遊走)に対する作用を指標として検討し、抑制効果を明らかにすることを目的とした。オレイン酸を原料としてニトロ化反応を行い、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで分離してニトロオレイン酸を調製した。1~300μMのニトロオレイン酸でヒト膀胱がん細胞T-24を処理し、細胞数を測定した。また、1~100μMのニトロオレイン酸が1~12 hにおけるT-24細胞の遊走に及ぼす影響について検討した。ニトロ化していないオレイン酸は300μMの濃度においてT-24細胞の生細胞数に全く影響を及ぼさなかったが、ニトロオレイン酸は10μMで生細胞数を減少させ、濃度依存的に細胞の増殖を抑制したで。また、生細胞数の減少にともなって死細胞率の増加が認められ、ニトロオレイン酸が細胞死を誘導することが明らかになった。さらにT-24細胞の遊走に対する影響を調べた結果、25μM以上の濃度で細胞遊走の抑制が認められた。以上のようにニトロオレイン酸にがん細胞の増殖と遊走に対する抑制作用が認められることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
市販されているニトロ化脂肪酸は非常に高価であるが、ニトロ化オレイン酸を合成することができたので、今後の研究の実施が極めて容易になった。ヒト膀胱がん細胞の増殖と細胞遊走に対する抑制作用を明らかにすることができた。
複数の細胞株を使用してニトロ化オレイン酸の細胞増殖に対する影響について検討する。がん細胞と正常細胞の増殖に対する作用を比較することによって、がん細胞選択的増殖抑制作用の有無を明らかにする。
ほとんどの予算額を使用したが端数の金額が残った。
平成28年度の物品費として使用する予定である。
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