酢酸の継続的な摂取が高齢動物の骨格筋の萎縮抑制に対してどのような影響を与えるかを明らかにするために、本年度はミトコンドリアの機能解析を行った。骨格筋組織(ヒラメ筋および腓腹筋)のSDH染色の結果、酢酸を摂取させた動物において、ヒラメ筋におけるSDHの陽性反応が高く、ミトコンドリアDNA量も有意に高かった。腓腹筋においても同様な傾向が見られた。腓腹筋ではミオグロビンおよびトロポニンIが増加し、核内におけるPGC1aが有意に増加していた。これより、酢酸を継続的に摂取することにより腓腹筋およびヒラメ筋でも遅筋化に進む傾向が示唆された。次に、L6筋管細胞を用いて、培養液に0.5mM-10mM酢酸を添加後の細胞におけるAMPKのリン酸化およびPGC1aのリン酸化をウェスタンブロット法により測定した結果、酢酸の濃度依存的にAMPKのリン酸化が増加し、AMPKの阻害剤により抑制された。骨格筋特異的転写因子MEF2Aの発現増加およびMEF2Aの核内への局在変化を観察した結果、酢酸処理後にMEF2Aの核内移行レベルが増加し、AMPKの阻害剤により抑制された。一方、腸管や脂肪組織には酢酸をリガンドとして活性化するGPR43が存在するが、骨格筋における酢酸の作用機序を明らかにする目的で、L6筋管細胞においても酢酸をリガンドとして活性化するGPR43が存在するかを、分化程度の異なるL6筋管細胞を用いて解析した。その結果、筋管細胞に分化が進むにつれてGPR43遺伝子の発現が増加することが示された。筋管細胞におけるGPR43が酢酸により活性化されるかどうかを解析するために、細胞内カルシウムレベルを解析する測定系を検討し、蛍光標識を用いて蛍光プレートリーダーによる解析法を確立した。酢酸で処理することにより、時間経過とともに細胞内カルシウムが増加する傾向が見られた。
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