研究課題/領域番号 |
15K07443
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
細野 朗 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (70328706)
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研究分担者 |
高橋 恭子 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (70366574)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 腸内共生菌 / 大腸 / 小腸 / リンパ組織 / T細胞 / 炎症制御 |
研究実績の概要 |
腸管免疫系をはじめとする宿主免疫系は生体で最大の免疫器官であり,広大な粘膜面で腸内共生菌や食品抗原をはじめとする多数の抗原刺激を常時受けている。大腸は炎症性腸疾患などの種々の炎症反応が小腸部位に比べて多発しやすい環境であることも知られ,この炎症反応の制御がどのようなしくみで制御されているのかは不明な点が多い。そこで本研究は,大腸部位に注目した大腸免疫系細胞応答の特性,またはアレルギー・炎症反応を制御する免疫制御機構に果たす腸内共生菌の作用を解明し,特定の腸内共生菌が誘導する免疫応答を分子レベルで解明することにより,プロバイオティクス,プレバイオティクスなどの機能性食品分子による免疫調節作用を介した応用性を検討することを目的としている。 本研究において,大腸部位に存在するリンパ組織の中でも特に結腸の免疫応答の特徴を明らかにすることを目的として,通常環境下で飼育した雌性10~12週齢のBALB/cマウスから腸管免疫系リンパ組織として,小腸パイエル(PP),盲腸リンパ節(CeP),結腸リンパ節(CoP),腸間膜リンパ節(MLN),脾臓(SPL)の細胞を調製し,フローサイトメトリーによりCD4+ T細胞に発現する細胞表面及び細胞内分子の解析を行った.その結果,通常マウスにおいては,活性化T細胞(CD69+CD4+)・感作型T細胞(CD44highCD62Llow)・分化したT細胞(Foxp3+CD4+・Foxp3+CTLA-4+・PD-1highCXCR5high)は共にCoP細胞においてPP細胞と比べて低い割合を示し,対照的に抗原に未感作なナイーブT細胞(CD62LhighCD44low)は高い割合を示すことが明らかになった。また,無菌マウスにおいてはCoP細胞の上記の細胞群の割合が通常マウスよりも低値であり,腸内共生菌の影響を強く受けていることも明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
腸管に存在する腸管関連リンパ組織のT細胞フェノタイプに注目した細胞特性の解析については,順調に機能解析が進行中であり,さらに腸内細菌が産生する有機酸による細胞応答(特にIgA抗体産生に与える影響)についての研究成果がでつつある。特に,それぞれの腸管関連リンパ組織の細胞を純度よく採取・精製できる様に実験手法が安定し,確立できたことは大きな成果である。その一方で,Toll様受容体のアダプター分子であるMyD88ノックアウトマウスの無菌マウスを用いた解析は,無菌マウスのアイソレータが事故により微生物学的なコンタミネーションがみられたことによって飼育繁殖がうまくできなかったところもあり,同マウスを用いた細胞応答の解析が少し遅れている。そして,T細胞の免疫関連遺伝子の網羅的解析についても,現在展開中であるが解析が終了していない.今後は,実験動物の飼育管理をさらに徹底し,安定した実験動物の供給を確保し,解析を行って参りたい。
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今後の研究の推進方策 |
大腸・小腸部位の腸管関連リンパ組織のT細胞に注目した免疫関連遺伝子の網羅的解析を進め,同組織におけるT細胞分化における特徴を明らかにしていきたい。また,同時に,各組織における抗原感作(抗原のリンパ組織内への取込み)についての作用機構を検討し,大腸関連リンパ組織の小腸関連リンパ組織との抗原監査機構の違いについて,比較検討していきたい。特に,食餌抗原に対してのT細胞応答に注目し,OVA特異的T細胞受容体トランスジェニックマウスを用いた抗原特異的T細胞応答について,大腸と小腸部位での細胞特性を比較検討していきたい.あわせて,プレバイオティクスなどのように腸内環境の異なる条件をつくり出すことのできる食餌成分(難消化性糖類,食物繊維など)による大腸免疫系の制御機構についても解析を進めていきたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
実験の進捗状況において,MyD88ノックアウトマウスの無菌マウスの実験に供給できる動物数を十分に確保できなかったこともあり,さらに,腸管関連リンパ組織のT細胞の免疫関連遺伝子の網羅的解析(トランスクリプトミクス)の進捗状況が予定よりも少し遅れていることもあり,これらの解析に使用する試薬類・実験器具類の購入が予定どおりに遂行できなかったため.
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次年度使用額の使用計画 |
大腸および小腸の腸管関連リンパ組織のT細胞において,免疫関連遺伝子の網羅的解析(トランスクリプトミクス)の展開をさらに進めていき,次年度の上記細胞の機能性解析を実施するため,消耗品(細胞培養器具類および抗体等の試薬類)の購入に使用予定である.
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