研究課題
大腸は小腸とともにその粘膜組織において腸管免疫系を有して宿主の生体防御機構において重要な役割を担っているが,大腸における免役系がどのような細胞によって構成され,さらに宿主の免疫系をどのように制御しているのかは不明な点が多い.特に大腸は,その管腔内において小腸と比べて圧倒的な数と種類の腸内共生菌を有しており,それによって腸内共生菌やその代謝産物がその腸内環境の恒常性の維持に寄与していると考えられている.しかし,小腸免疫系に比べて大腸免疫系は,そこに存在する免疫系細胞の特徴はもとより,それらの免疫系は腸内共生菌という生体外異物とどのような機構で共生し,炎症制御しているのかはほとんどよくわかっていない.本研究では,小腸と大腸に存在する腸管関連リンパ組織に注目し,その細胞を構成するCD4陽性細胞の特徴を明らかにする目的で,細胞フェノタイプを解析した.特に,腸管腔内に存在する腸内共生菌の影響を解析するために,通常(CV)マウスと無菌(GF)マウスのそれぞれの腸管関連リンパ組織を採取して検討を行った.小腸パイエル板(PP)におけるB細胞の抗体産生能を調節する働きを持つ濾胞性ヘルパーT細胞(PD-1+/CXCR5+)の割合では,CVマウスの方がGFマウスと比べて高い値を示すことが明らかになった,一方,液性免疫に関係するTh2細胞(IL-4+CD4+細胞)と免疫応答を抑制的に調節する誘導性制御性T細胞(Neropilin-1-Foxp3+CD4+細胞)の割合は,CVマウスとGFマウスとの間に有意差は認められなかった.また,結腸リンパ節(CoP)では濾胞性ヘルパーT細胞,誘導性制御性T細胞の割合は,CVマウスの方がGFマウスと比べて高い値を示し,腸内細菌依存的な影響がみられた.以上の結果から,小腸のPPと結腸のCoPではT細胞の分化や増殖を決定づける要因が異なる可能性が示唆された.
3: やや遅れている
腸管に存在する腸管関連リンパ組織のT細胞フェノタイプに注目した細胞機能特性の解析については順調に解析が進行中であり,腸内細菌の有無による動物モデルである通常(CV)マウスと無菌(GF)マウスを用いた解析により,大腸のT細胞分化が腸内共生菌の存在によって極めて顕著に影響を受けていることが明らかになった.そこで,このT細胞分化の分子機構を介するために免疫関連遺伝子に注目したトランスクリプトミクス解析を行うべく,腸管関連リンパ組織より精製した細胞調製を進めているが,動物個体から採取できる生細胞数が少ないことから効率よく純度の高い細胞群を採取する操作に時間がかかっており,進捗状況が遅れている.さらに,卵白オボアルブミン(OVA)に対する経口免疫寛容の解析を行う実験系において,小腸および大腸部位の免疫制御応答の解析について,腸内細菌叢とT細胞応答の炎症制御応答の関係に注目した動物実験を検討中である.
近年の炎症性疾患の増加は,食餌条件によって誘導される生理的な応答も関与していることが想定されていることから,高脂肪食餌条件下で食物アレルギー誘導の炎症モデル動物を使用した,腸管免疫系の炎症制御応答について,解析を予定している.また,腸内細菌叢を制御できる無菌マウスおよび特定の細菌のみを定着させたノトバイオートマウスを作出して炎症誘導時の大腸免疫系応答の解析を実施する予定である.
研究の進捗状況において,大腸および小腸の腸管関連リンパ組織のT細胞に注目した免役関連遺伝子の網羅的解析を行う実験が,精製されたCD4 T細胞を純度よく効率的に確保できずに完全に履行できなかった.特に,無菌マウスの繁殖が,飼育期間中にコンタミネーションを発生させてしまったことにより,安定して効率的な動物の確保が難しかったことで,上記の実験に供するマウスを確保できず,進捗状況に遅れを発生してしまったことによる.
大腸および小腸の腸管関連リンパ組織よりT細胞を効率的に採取し,そこから抽出して確保できたRNAをもとにして,免疫関連遺伝子の網羅的解析を実施する.炎症制御反応が腸内細菌の存在によってどのように制御されているのかを解明することに役立てていきたい.なお,上記の予算使用額はGFマウスと比較する通常環境CVマウスの購入,および特定の腸内細菌を有するマウスの作出により免疫関連遺伝子の網羅的解析のために使用する.そして,本研究の特徴である腸内細菌環境の制御下において,すなわち,無菌および腸内環境の異なるマウスにおいて,この微生物学的環境が上記の大腸免疫系の免疫関連遺伝子発現に与える影響を,詳細に解析する予定である.
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