本研究は日本食や日本食に使われる食材が主に人の気分状態に及ぼす効果について、主観的及び客観的評価を用いて検討し、ストレスや疲労感の軽減に対する日本食の有効性に関わる基礎的なデータ収集と解析を行ってきた。主観的な気分状態の評価には、Visual Analog Scale(VAS)や気分を5分類で評価する気分シートを用い、客観的指標には、心拍変動から自律神経活動を評価する手法を用いた。平成28年度から継続してきた合わせだしに加えて、日本料理の種類や日本食特有のユズや山椒、わさびなど薬味についても同様の方法を用いて検討を行った。和食、洋食、中華の代表的な料理を比較することで、日本食の特徴を見出す実験として、日本料理の刺身と麻婆豆腐(中華料理)および牛肉のステーキ(西洋料理)を比較した結果、香りや香辛料の強い麻婆豆腐やステーキと異なり、刺身は主観的な気分の高まりが大きいことが示された。一方で、自律神経活動においては麻婆豆腐やステーキが交感神経優位になるのに対し、刺身は自律神経に対する効果が小さいことが示された。また、山椒のエッセンスを含有した溶液を摂取することで交感神経活動が抑制され、副交感神経優位になることが示され、加えて主観的な気分状態を改善することも明らかとなった。試料として用いた山椒エッセンスには、副交感神経活動を亢進させることが報告されている(R)-リナロールが多く含まれており、生理的影響をおよぼしているものと推察された。また、ユズの香りは嗜好性が高いにもかかわらず、気分状態や自律神経活動に及ぼす影響は小さいことが示された。
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