研究課題/領域番号 |
15K07451
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
塚本 知玄 岩手大学, 農学部, 准教授 (20312514)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 大豆 / サポニン / 化学構造解析 / 遺伝解析 / プロファイル解析 / LC-PDA/MS/MS / 大豆加工食品 |
研究実績の概要 |
大豆種子に含まれるサポニンは多様な分子種の総称であり,化学構造の違いにより健康機能性や呈味性が大きく異なると報告されているが,不明な点が多く再評価が求められている。一方,大豆種子サポニン組成は,遺伝子発現レベルで制御される各種酵素(アグリコン分子への酸素付加に関与する各種CYP酵素,アグリコン分子に結合する糖鎖組成を制御する各種glycosyltransferase,並びにそれらのアセチル化などに関与する化学修飾酵素)の発現を制御する多様な遺伝因子の組合せにより決定されると考えられる。そこで本研究では,微量,不安定,単離精製が困難などの理由で構造解析できなかった各種サポニンの化学構造を,遺伝解析とLC-PDA/MS/MS分析に基づく総合判断で推定する新しい手法「プロファイル解析」で解析した。 (1) 化学構造が異なる種々の既知サポニンをLC-PDA/MS/MS分析し,各サポニンの溶出位置・MSフラグメントパターンとアグリコン骨格並びに糖鎖配列との関係を調べ,化学構造とLC-PDA/MS/MS分析データとの相関に関するデータベースを構築した。 (2) 未知アグリコンの合成は一因子優性遺伝子Sg-6で,また既知サポニンC-3位結合糖鎖へのAra転移はSg-4遺伝子でそれぞれ制御されている。遺伝子がSg-4/sg-6型とsg-4/Sg-6型を交配して得られた交雑後代のSg-4/Sg-6型は,予想通り新規サポニンを蓄積した。 (3) 新規サポニンを単離精製し,精密質量分析,赤外吸収スペクトル分析,核磁気共鳴スペクトル分析(1H,13C-NMR,DEPT,HMBC,HMQC等)等で解析した結果,これらの化学構造は,プロファイル解析で推定した結果(未知アグリコンのC-3位糖鎖にAraを持つ)と完全に一致した。 プロファイル解析は,大豆種子サポニンの化学構造解析に有効であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成27年度計画では,以下の3項目 (1) 既知サポニンの化学構造とMS/MSフラグメントパターンに関するデータベースの構築 (2) 未知サポニン合成に関与する遺伝子の遺伝解析 (3) 未知サポニンアグリコン(ソヤサポゲノールH, I)の単離精製と化学構造解析 を実施し,予定通りの結果が得られている。 加えて,新たなサポニン型を示す大豆系統が見いだされたため,それらの原因遺伝子の遺伝解析と,それらに蓄積する新規大豆サポニンの化学構造解析とを,別途,並行して進めている。また,微量成分の化学構造を解析するプロファイル解析手法は,大豆サポニンに対してのみ有効な手段ではなく,他の植物,あるいは各種加工食品中の微量な成分の化学構造変化の解析についても応用可能な手法であることが明らかとなってきた。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 未知サポニン(ソヤサポゲノールJ配糖体)の単離精製と化学構造解析:ソヤサポゲノールJは不安定で加水分解の際にアグリコン構造が変化してしまうため,アグリコンだけを単利精製して構造を決めることができない。そこで,ソヤサポゲノールJをアグリコンとする未知サポニン配糖体を単離精製し,配糖体のまま,精密質量分析,赤外吸収スペクトル分析,核磁気共鳴スペクトル分析(1H,13C-NMR,DEPT,HMBC,HMQC等)等で解析し,その化学構造を決定する。 (2) プロファイル解析手法を用いた大豆サポニン分析に関する妥当性の検討と評価:得られた結果に基づき,プロファイル解析による大豆サポニンの化学構造推定の妥当性を評価・検証する。もしこれまでの予想に反し,遺伝解析結果に基づく未知サポニン(アグリコン)の予想構造が実際の構造と大きく異なる結果が得られた場合は,化学構造が異なる別の既知サポニン(市販品や精製品)を追加分析し,化学構造とLCーPDA/MS/MS分析データとの相関を見直し,より精度の高いデータベース構築を目指す。 (3) プロファイル解析手法を用いた大豆種子並びに大豆加工食品のサポニン組成の再評価(平成29年度):これまで,大豆不快味サポニン成分(グループAアセチルサポニン類)は種子胚軸にのみ局在すると報告されてきたが,脱胚軸して子葉のみを使った豆乳でも不快味が感じられる。種子の子葉には,部分的にアセチル基が取れた脱アセチルグループAサポニンが多量に検出されると推定される。どのようなサポニンが,どのような濃度・含量で種子子葉に含まれるのか,豆腐加工時の浸漬処理や発芽(大豆もやし製造)によりそれら成分が変化するのかなど,上記で得られる種々の情報を活用して,食品化学的立場から,大豆加工食品中やその他の食品のサポニンや低分子化合物の組成を再検討する。
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