本研究目的は、これまでガラス状食品の物性制御に利用されてきたガラス転移温度を、ラバー状食品および液状食品の物性評価および予測に利用することである。本年度はこれまでの研究成果を整理しつつ、マンゴーペースト、マンゴー溶質(マンゴーペーストからパルプを除いた水溶性成分)、それらにマルトデキストリンを加えた混合物、多孔質トレハロース固体、クッキーなどを試料として研究を進めた。 凍結乾燥マンゴー粉末試料のガラス転移温度を示差走査熱量計によって系統的に調べ、水分含量の低下およびマルトデキストリン含量の増加と共に上昇することを明らかにした。また、マンゴーペーストとマンゴー溶質との比較により、パルプ成分はガラス転移温度を上昇させることが明らかとなった。これらの結果を既往の乾燥果物のガラス転移温度に関する研究成果と併せて広くデータ解析し、乾燥果物におけるガラス転移温度の水分含量依存性を予測するための経験式を得た。マンゴー溶質を水に溶かしたマンゴー水溶液はニュートン流動を示し、その粘性率はガラス転移温度によって特徴付けることができた。また、凍結乾燥物のラバー状態における物理的性質として、粉末同士の凝集(固着)に着目し、各試料の固着率はラバー状態において著しく高くなることを明らかにした。 クッキーは複雑な多成分系試料であり、示差走査熱量計を用いてガラス転移温度を決定することはできなかった。しかし、昇温レオロジー測定を用いることで、力学的ガラス転移温度を決定することができた。力学的ガラス転移温度を粘性率に関連付けることで、その物理的意味を明確にすることができた。更にクッキーのラバー状態における物理的性質として、テクスチャーに着目し、ラバー状態では水分含量の増加によって一旦硬くなった後、著しく軟化することが明らかとなった。
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