研究課題
アジア熱帯雨林の分布する多くの地域では季節的な乾期が存在しない一方で、展葉や開花などのフェノロジーは不規則に起こる乾燥と関連していることが分かっている。本研究は、明確な季節が存在しないボルネオ島熱帯雨林において、貯留炭素を考慮したうえで、樹木のフェノロジーを介してバイオマス生産と呼吸に利用される炭素量が各器官において季節的にどの様に変動するのかを明らかにすることを目的とする。この目的を達成するために、ボルネオ熱帯雨林において、異なる土壌水分環境下における葉、幹、根の生産量および呼吸量を計測する計画である。2016年度は2回調査を行った。これまでに明らかとなったことは次のとおりである。LAIは土壌水分と正の相関があり、フェノロジーカメラの結果より、乾燥の後に展葉が起こることが多いが、樹種によってタイミングが異なることが分かった。幹呼吸は土壌水分と明確な正の相関があった。肥大成長のタイミングは樹種によって大きく異なることが、多くの樹種で乾燥時には肥大成長していないことが分かった。土壌呼吸は乾燥の影響はあまり受けておらず、年間をとおしてあまり変化しないことが分かった。根バイオマスおよび根呼吸も現在のところ、明確な乾燥を示すデータは得られていない。本研究では3つの仮説、すなわち(1)NPP とR の量は時間的に連動し、それは乾燥と関連している(2)葉・幹枝・根系に配分量と比率は時間的に変動し、それは乾燥と関連している(3)PCS とGPP の関係は時間的に変動する、を検証するデザインとなっている。今までのデータに基づき、それらの仮説を考えると、(1)は幹に関しては仮説を支持する結果が得られているが、根に関しては支持するような結果は得られていない。(2)と(3)はデータがまだ少ないために検証できていない状況である。
2: おおむね順調に進展している
生産量や呼吸量の定期的な調査はおおむね順調に行われており、データは順調に蓄積されているところである。時間的スケーリングのための呼吸速度の日変化計測は、土壌呼吸は自動計測を行うことで達成されたが、幹呼吸は行うことができなかった。一方で、フェノロジーカメラや自動デンドロメーターの導入により、より細かい時間スケールで生産量を推定することが可能となった。また、計画では想定していなかったが、樹種間差が大きいと考えられるため、今年度、樹種の影響を評価できるようなデザインで調査を開始した。この様に、幹呼吸の日変化計測は計画通り進んでいないが、その他のことに関しては計画以上の進展があったことから、現在の進捗状況はおおむね順調に進展していると考えられる。
本研究は様々な土壌水分環境においてできるだけ多くのデータを蓄積することが重要である。したがって、基本的に今後も継続して調査を行う。計画は次のとおりである。2017年4月 生産量と呼吸の調査(幹呼吸、幹肥大成長、根呼吸、根バイオマス、土壌呼吸)、電動デンドロバンドを追加で設置する。2017年7月 生産量と呼吸の調査(LAIの計測、フェノロジーカメラのデータ回収、幹呼吸、幹肥大成長、根呼吸、根バイオマス、土壌呼吸)、幹呼吸日変化の計測2017年9月 生産量と呼吸の調査(幹呼吸、幹肥大成長、根呼吸、根バイオマス、土壌呼吸)2018年2月 生産量と呼吸の調査(幹呼吸、幹肥大成長、根呼吸、根バイオマス、土壌呼吸)2018年3月 生態学会にて成果発表
2015年度の未使用額が多かったために、次年度使用額が高くなった。2016年度単年では、予算90万に対し使用金額が56万円であった。この差異は、旅費によるものである。これは安価な航空券を利用するなどして想定よりも低予算で渡航できたためである。その他はおおむね、想定通りの支出であった。
今年度は少なくとも4回の出張を予定しており、研究協力者の出張費も支出するため、想定よりも多くの旅費がかかる予定である。また、フェノロジーカメラや電動デンドロバンドの新規設置を予定しているために、物品費が予定よりも多くかかる予定である。
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Agricultural and Forest Meteorology
巻: 220 ページ: 190-199
http://doi.org/10.1016/j.agrformet.2016.01.140