アジア熱帯雨林には、明確な季節性がない一方で、不定期に起こる乾燥と展葉や開花が関連している森林がある。本研究は、明確な季節が存在しないボルネオ島熱帯雨林において、樹木のフェノロジーを介してバイオマス生産と呼吸に利用される炭素量が各器官において季節的にどの様に変動するのかを明らかにすることを目的とする。この目的を達成するために、これまで、ボルネオ熱帯雨林において、異なる土壌水分環境下における幹、根の生産量および呼吸量を計測してきた。 本研究ではまず、測定手法についての検討を次のとおり行った。(1)高さ変動を考慮した幹呼吸の推定方法を確立した(Katayama et al. 2019)。(2)熱帯林で初めて枯死根を考慮した細根生産量を推定することに成功した(Kaetayama et al. 2019)。(3)簡易な細根フェノロジーの調査方法を確立した(Kume et al. 2018)。これらの手法を用いて次のことを明らかにした。(1)幹呼吸は土壌水分と正の相関があり、乾燥時には低くなることが明らかにした(Katayama et al. 2016)。(2)幹の肥大成長は樹種ごとによって異なるが、多くの種で湿潤な時期に肥大成長を行うことが明らかとなった。(3)LAIも土壌水分と正の相関があった。このことは、リターフォールが乾燥時に多くなることと一致していた。(4)一方で、土壌呼吸、細根の呼吸速度、細根の成長フェノロジーは土壌水分とは関係が見られなかった(Endo et al. 2019)。 本研究により、炭素循環の一部の要素やいくつかの樹種のフェノロジーは乾燥と明確な関係が見られる一方で、森林全体の炭素循環は季節的に比較的安定していることが明らかとなった。本試験地ではフェノロジーが多様であるため、森林全体としては乾燥への炭素循環の応答が不明瞭であることが示唆された。
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