今年度は前年度までに結果が出ていたカラマツに加え、トドマツの緑葉も対象として、本研究課題にて提案してきたリグニン定量法(以下、改良法)を適用した。また、その改良法によって計算される定量値の妥当性を検証するために、カラマツとトドマツの材部を入手し、木材分析において常用されるクラーソン法やアセチルブロミド法との比較を行った。その結果、カラマツ脱脂木粉について、改良法で得られたリグニン定量値は、クラーソン法による定量値よりも10%程度小さく、アセチルブロミド法による定量値よりも5%程度小さかった。一方で、トドマツの脱脂木粉については、3つの方法間で定量値にほとんど差がなかった。すなわち、改良法はほぼ妥当なリグニン定量値を与えることを、木材試料について実証した。その上で、カラマツ、トドマツの緑葉について改良法を適用すると、リグニン含有率はいずれも10%未満と計算された。これは、クラーソン法やアセチルブロミド法による定量値のおよそ半分であり、材部において確認した、改良法による定量値の妥当性から考えると、クラーソン法やアセチルブロミド法は、やはり葉の試料を適用対象とした場合には、やはり過大な定量値を与えることが示された。この結果は、広葉樹であるミズナラの葉について過去に我々が見出した知見と一致し、改良法の適用が葉の試料に対して幅広く有効であることを明確に示す。さらにこの改良リグニン定量法が、温帯産樹木の木部組織とは異なる多くの植物試料中のリグニンの定量に関し、幅広く適用できる可能性があることを示唆している。残念ながら、研究計画当初に予定していた、様々な樹種の落葉を用いた生分解実験におけるリグニン分解挙動や分解生成物の追跡、テーマとして掲げた生分解を規定する律速因子の解明、には研究期間を1年間延長したにもかかわらず、到達できなかったが、なお重要な研究課題として今後も継続する予定である。
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