研究課題
フォッサマグナとは「大きな溝」を意味し、糸魚川から静岡構造線東側の地溝帯に名付けられたものである。この地溝帯の南半分の地域には、この地域に分布が限られた植物が数多くある。そのため、日本の植物区系を論じる際には、この地域をフォッサマグナ地区として区別し、これらの植物をフォッサマグナ要素植物という。これらの種は第四紀の激しい気候変動のもとで、火山活動によるオープンな環境で分化した種類と考えられている。しかしながら、生物の進化には環境要件だけではなく、歴史的な影響が重要であり、これらの地史がフォッサマグナ要素植物を形成した要因については議論がされていない。南部フォッサマグナには非常にユニークな地史が存在する。伊豆諸島は太平洋プレートの沈み込み帯に沿って、フィリピン海プレート上に形成された海洋島である。伊豆半島、丹沢山地、富士山北側の御坂山地および巨摩山地も、かつては現在の伊豆諸島と同様に島であり、順にプレート運動によって北上し、本土(本州)に衝突・付加したと推定されている。島は進化の実験場として知られる通り、伊豆諸島にも固有種が多く存在することが明らかになっている。島から大陸への再移入は、①海を越えた分散、②海水面の上下動による陸橋の形成・消失(陸橋島の場合)、③島そのものの大陸への衝突・付加に大きく分けられるが、古伊豆島で種分化をした種は、①や③のルートで本土に再移入し、現在のフォッサマグナ要素植物の一部を形成していると予測される。実際に、動物では本プロセスによる再移入が証明されているが、植物については証明されていない。このため、本研究では、島嶼での進化、島の移動・付加による再移入というプロセスを考慮した分子系統地理学的研究を行うことで、フォッサマグナ要素植物というユニークな植物種群の形成史解明を行うことを目的とする。
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Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., Ser. B
巻: 45 ページ: 17-27
https://www.kahaku.go.jp/research/researcher/report.php?d=murai