研究課題/領域番号 |
15K07474
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
紙谷 智彦 新潟大学, 自然科学系, 教授 (40152855)
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研究分担者 |
村上 拓彦 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (20332843)
箕口 秀夫 新潟大学, 自然科学系, 教授 (30291355)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 旧薪炭ブナ林 / 広域的な分布 / 林業的利用 / 林分構造 / 樹洞の形成 / ブナ製品の試作 / ウッドデザイン賞 |
研究実績の概要 |
山間豪雪地の集落に暮らす人々は、半世紀前までブナを薪や炭に加工して私たちの日々の暮らしを支えるエネルギーとして供給していました。現在は、ほとんど利用されなくなった旧薪炭林のブナは、成長して大きく育ってきているにもかかわらず、活用されないままです。そのことが、かつて林業が主要な産業であった豪雪地の集落が衰退する原因のひとつにもなっています。炭や薪に活用されていた薪炭林の多くは、山間集落の個人が所有しています。つまり、ブナを活用することは、山に暮らす人々の生活を支えることにつながるのです。そのためには、資源としての旧薪炭ブナ材に高い付加価値を持たせ、大量に伐採することなく、確実にブナの世代交代を行う森林管理が必要です。 本研究は、①そのような旧薪炭ブナ林の広がりをリモートセンシング技術を活用して把握する手法の確立を目指すとともに、②旧薪炭林のブナが用材として活用できるのかを明らかにし、③ブナ林に生きる生物を保全しながら、④林業的に利用するための指針を作成することを目的としています。平成27年度は、十日町市松之山をフィールドとして、以下の成果が得られました。 ①早春にブナのみ開葉する特性を生かして、4月下旬に撮影された人工衛星の画像を用いて旧薪炭ブナ林の分布を適確に把握することが可能であることがわかりました。②林の木の密度と枝葉の広がりが立木の形質に関係していることが明らかになったことから、ドローンをなどで撮影した空中写真から、用材林として有効な資源分布を推定することが可能になりました。③キツツキやブッポウソウなどが利用するブナの自然樹洞の形成に、カミキリの幼虫が木部を利用することで促進されていることが明らかになりました。④試験的にブナを択伐して乾燥挽板にし、ブナ製品を試作しました。これらの活動が評価され、本研究のプロジェクトは、2015年度ウッドデザイン賞の認証を得ました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当年度の進捗状況は、以下の6点に集約できる。 1.旧薪炭ブナ林の広域的分布の把握手法については、マルチスペクトルの高分解能WorldView-2の衛星画像データを用いてマッピングを試み、NDVI=0.2 を閾値としてブナの分布域が特定できる可能性を示すことができた。2.林分構造の特性については、胸高直径, 枝下高比, 形状比, 樹冠サイズの林分平均値が林分密度、相対幹距との間に有意な相関があることを明らかにした。今後、ドローンや航空機による空中写真から樹冠サイズと密度を計測することで、より広域的に用材林として有効な資源分布を推定することが可能になった。3.旧薪炭ブナ林の生物多様性については、ブナにおける自然樹洞の形成にクワカミキリの幼虫の木部での生育に関連していることを明らかにした。4.旧薪炭ブナ林を対象に、開葉前の残雪期に撮影した垂直画像から計数した混芽数から種子生産量を推定することを可能にした。5.林業的な活用という点から、試験伐採した15本のブナ丸太から採材できる総板面積と材質別の枚数予測式を得た。これにより、厚さと板幅を指定することで、丸太材積からおおよその挽板枚数が算出できた。6.この材を使って、新潟県内の材木店、木のおもちゃ工房、木工職人、家具店とともに旧薪炭ブナ材にスノービーチというブランドを命名し、ブナ製品を試作した。 これらの活動が評価され、本研究のプロジェクトは、2015年度ウッドデザイン賞の認証を得た。
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今後の研究の推進方策 |
1.旧薪炭ブナ林の広域的分布の把握手法については、より解像度の高いドローンなどによる撮影画像を使い、林分構造の特性から明らかになった樹冠サイズと密度を計測することで、広域的に用材林として有効な資源分布の推定を試みたい。2.自然樹洞の形成が旧薪炭ブナ林におけるクワカミキリの高頻度の生息に起因していることが明らかになったことから、生物多様性を保全しながらカミキリが生息したブナ材を有効に活用する木材利用の取り組みを試みたい。3.開葉前の混芽数から種子生産量を推定することが可能になったことから、ブナを択伐した後のブナ林再生のための指標として、実生の発生・消長・成長までを包含した更新指標の作成を試みたい。4.林業的な活用を図るために、ブナ丸太からとれる総板面積と材質別の枚数予測式を活用して、次の試験伐採により実用的な指標の確立を試みたい。5.スノービーチブランドを活かして、国産ブナ材をつかった製品の需要喚起の方策を検討したい。6.旧薪炭ブナ林の安定的な林業的利用について課題を抽出したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
1.広域的に用材林として有効なブナ資源の分布推定を試みたい。2.鳥類や哺乳類による旧薪炭ブナ林における自然樹洞の利用実態を明らかにしたい。3.実生の発生・消長・成長までを包含した更新指標の作成を試みたい。4.ブナ丸太からとれる総板面積と材質別の枚数予測式を活用して、次の試験伐採により実用的な指標の確立を試みたい。5.スノービーチブランドを活かして、国産ブナ材をつかった製品の需要喚起の方策を検討したい。6.旧薪炭ブナ林の安定的な林業利用についての課題を抽出したい。
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次年度使用額の使用計画 |
1.ブナ資源の分布推定のために、現地調査のための旅費と謝金を使用する。2.旧薪炭ブナ林における自然樹洞の利用実態を明らかにするために、現地調査のための旅費と謝金を使用する。3.ブナを択伐した後の実生の発生・消長・成長の現地調査のために、旅費と謝金を使用する。4.試験伐採により実用的なブナ材の指標確立のために旅費と謝金を使用する。5.国産ブナ材をつかった製品の需要喚起の方策を検討するために、旅費と謝金を使用する。6.旧薪炭ブナ林の安定的な林業的利用についての課題を抽出するために、謝金を使用する。上記の現地調査に使用する消耗品を購入するために、物品費を使用する。論文の英文校閲のためにその他経費を使用する。
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