研究課題/領域番号 |
15K07475
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
中田 誠 新潟大学, 自然科学系, 教授 (80217744)
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研究分担者 |
柴 和宏 富山県農林水産総合技術センター, 富山県農林水産総合技術センター木材研究所, 主任研究員 (90446641)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | グライド / 間伐小径材 / 雪崩防止林造成 / 木材耐久性 / 雪上直立木 / 斜面積雪安定度 / スギ-広葉樹混交林造成 |
研究実績の概要 |
グライド(積雪の斜面移動)やこれに伴う全層雪崩が常襲し、樹林化が阻害された多雪地帯の急傾斜地において、雪崩防止林造成方法の確立が求められている。本研究では、木製グライド防止工施工地において、経年に伴い木製グライド防止工が減少する一方で、植栽木が成育し積雪の安定に必要な立木密度を確保できるか定量的に評価し、雪崩防止林の成立につながるか検討を進めた。 昨年度に続き、富山県内7箇所の施工地(9~14年経過)で、木製グライド防止工の耐久性調査と植栽木の毎木調査を実施した。スギ植栽木については、埋雪期を脱し雪上直立木となった本数密度を調べ、斜面積雪安定度の経年変化を求め、スギ林造成が可能であることを再確認した。一方、木製グライド防止工の残存率の評価ついては、木材部材(スギ間伐小径材)の腐朽被害度を6段階で目視により評価してきたが、目視被害度と残存強度との関係を明らかにすることで、残存率の評価の精度を高めることが期待できる。そこで、木材部材を現地で直接曲げ試験する簡易装置を開発するとともに、14年経過した施工地にて同装置による曲げ強度試験を行い、目視被害度と残存強度との関係を明らかにした。 針広混交林の造成について、木製グライド防止工の耐用年数を勘案して,初期成長が遅いブナやミズナラといった広葉樹を成長が速いスギと混植することで,斜面積雪の安定を維持しながら成林に繋がるか検討した。施工後11年経過したスギと広葉樹を混植した施工地を調査したところ,木製杭は腐朽による劣化に伴い残存率が40%となり,斜面積雪安定機能が大きく減衰していた。これに対して,ブナ,ミズナラの平均樹高は3.2m,3.3mであり斜立状態のものが多く,雪崩を防止するには不十分と考えられたが,スギは平均樹高が6.0mに達し,大半が直立状態となったことから,今後成林に至るまで,斜面積雪安定機能の主体を成すものと推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スギ(治山事業での植栽樹種として広く普及している)を中心に植栽したものや、スギに広葉樹を混交させたもの、広葉樹のみを植栽したもの、以上のような植栽樹種の異なる富山県内の7施工地(入善町舟見、魚津市平沢、氷見市棚懸、南砺市上田・大崩島・小山・下出)を対象に調査を継続している。これにより、木製グライド防止工の耐久性、植栽木の成育データ、さらにこれらに対する積雪荷重やグライド量のデータが蓄積しつつある。 平成27年度は、これらデータの中からスギ植栽木について、雪上直立木まで成育した本数密度から植栽木による斜面積雪安定度を定量化し、その経年変化の予測モデルを作成した。これと合わせて、グライド防止工木材部材の腐朽に伴う折損の発生状況から、経年によるグライド防止工の残存率を求め、これを斜面積雪が安定し続けている面積率として位置付けて斜面積雪安定度を求めた。 平成28年度は、針広混交林の造成について、木製グライド防止工の耐用年数を勘案して,初期成長が遅いブナやミズナラといった広葉樹に成長が速いスギと混植することで,斜面積雪の安定を維持しながら成林に繋げることが可能であることを示した。 以上のように、斜面積雪安定度の経年変化を確認しながら、木製グライド防止工を用いることで、スギおよび針広混交の雪崩防止林を造成することが可能であることを示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成27~28年度に作成した、スギ植栽木と木製グライド防止工による斜面積雪安定度の予測モデルについて改良を進める。さらに、植栽木の成育段階の違いによる木製グライド防止工と植栽木にかかる実際の積雪荷重を現地で測定しながら、経年による積雪荷重の両者負担の変化を明らかにして、経年に伴う斜面積雪安定度の負担比率の評価を試みる。 グライド防止工の耐久性評価については、現地目視調査による木材部材の腐朽被害度と簡易曲げ試験装置による残存強度との関係をより詳細に調べる。これらのデータを用いて経年に伴う強度的な劣化シミュレーション行いながら、本グライド防止工の耐久性評価に対する信頼性の向上を目指す。 スギ植栽木は木製グライド防止工の耐用期間中に十分な成育が期待できる信頼性の高い樹種と位置付けられることが明らかになりつつある。また、スギと複数の高木性広葉樹を組み合わせた混交林造成の可能性ついても示された。これらの混植した高木性広葉樹の成育について注視しつつ、高木性広葉樹による斜面積雪安定度についての評価を行いながら、木製グライド防止工による多様な雪崩防止林造成法の確立を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
新潟から試験地のある富山県への調査日数が当初計画よりも少なかったことと、当初に予定していた日本森林学会大会が所用のために参加できなかったために旅費の残額が生じた。前者については、富山県に勤務する研究分担者が不足分の日数を精力的な調査でカバーしてくれたため、おおむね研究計画通りに進めることができた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は本課題の最終年度であるため、研究計画全体のとりまとめのために研究代表者(新潟大学)と研究分担者(富山県木材研究所)が頻繁に打ち合わせを行う必要があり、相互の往復の旅費として当初計画よりも余分に使う予定である。また、これまで同様に現地(富山県)での実地調査も継続して行う。
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