森林の土壌分解系は、落葉や落枝といった生物遺体の分解を通じて、栄養塩の循環や土壌有機物の生成に深く関わっている。このため、森林生態系の物質循環や森林動態を理解する上で、物質生産や食物連鎖といった、地上部における生態系プロセスのみならず、地下部の土壌分解系の構造や機能に関する理解が重要だが、特に亜熱帯林におけるデータが少ない。本研究課題では、本邦亜熱帯林における落葉分解のプロセスを明らかにすることを目的として、南西諸島から本州に至る常緑広葉樹林においてリグニン分解にともなって発生する落葉の漂白(白色化)についての野外調査を実施した。平成29年度には、石垣島から佐渡島に至る20地点でシイ類の落葉を採取した結果をまとめた。落葉上の漂白面積率は年平均気温の低下にともなって減少した。表面殺菌法により、計800葉片から、落葉の漂白を引き起こす子嚢菌類195菌株、担子菌類83菌株の計278菌株を分離した。これらの菌株の分類群をrDNA ITS領域の塩基配列に基づいて検討したところ、子嚢菌類33種、担子菌類29種の計62種に分類された。地点あたりでは3~35菌株が得られ、2~14種が記載された。もっとも分離菌株数が多かったのはNemania diffusaで、19地点から86菌株が得られた。平成27年度から29年度までの期間全体を通じて、沖縄本島北部の亜熱帯常緑広葉樹林を中心として、落葉漂白の出現する樹木および漂白に関わる菌類の多様性、漂白部の化学組成およびその落葉分解にともなう変化、そして落葉漂白とそれに関わる菌類の本邦における地理的分布を明らかにすることができた。以上の成果により、リグニン分解に関与する菌類の多様性と機能の点から、本邦亜熱帯林の土壌分解系について新知見が得られるとともに、土壌分解系に関する研究分野で独創性の高い成果を得ることができた。
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