研究課題
シロアリ類の分類の難しさは、シロアリが社会性昆虫である故に個体変異が大きく成虫個体の入手が困難であることや飼育実験が行えないことなどに起因している。そのために、本研究では、まず遺伝的多型を検出し、それぞれの形態変異を記載する方法を行なっている。これまでのミトコンドリア16SrRNAおよびCOⅡ領域、核のITS1領域を用いた分子系統解析から、中琉球および南琉球のヤマトシロアリ属が従来の分類体系とは異なる分布を示していることが分かった。また、これら琉球産ヤマトシロアリは本州列島産ヤマトシロアリとは系統的に離れていることも分かった。多くの生物の分布パターンの研究から、おそらく琉球産と本州列島産の分布の境界は、トカラ列島の悪石島と子宝島の間にある渡瀬線にあることが推測されるので、本年度はトカラ列島から奄美大島までのヤマトシロアリの採集を行い、16SrRNA領域での分子系統解析を行い、種構成および分布を明らかにした。ところが、予測と反して、宝島から口之島までのトカラ列島全域から得られたヤマトシロアリ属はすべて奄美大島に分布するR. amamianusと同じハプロタイプに属し、形態的にもR. amamianusと同じであった。従って、本属の大きな分布境界はトカラ列島よりも北にあることが示唆された。さらに、本州列島に分布するR. speratusについても詳細な2亜種の分布および形態的区別点を調べ、hybrid zoneを明らかにした。これらの成果について国内の学会で発表し、意見交換を行った。
3: やや遅れている
サンプリングおよび遺伝子解析、形態観察については計画通りに達成できている。日本昆虫学会での成果発表と意見交換も行うことが出来た。しかし、体表炭化水素分析および生態観察が行えていないため、やや遅れていると判断した。
サンプリング計画:当初の計画では、トカラ列島にシロアリの分布の大きな境界線が存在すると思われていたが、それ以北に存在することが明らかになったので、本年度は種子島・屋久島・三島での調査を予定している。遺伝子解析:これまでにミトコンドリア16SrRNAでの分析は高精度に行なえるが、COIIおよびITS、28S領域での分析方法がまだ不安定なので、さらに検討を加えて、日本全域からのサンプルでの分析を完遂する。また、現在すでに選定されている制限酵素を利用した分析もすすめる。生態観察および体表炭化水素分析:体表炭化水素分析および生態的特徴調査を初年度から行う予定であったが、体表炭化水素多様性は遺伝的多様性の概要を明らかにした後に実施する方が効果的であると考えて、体表分析はH30年度以降に行うこととする。成果発表:日本昆虫学会および中国支部会で発表を行う予定である。現在協力関係にある台湾の研究者とともに台湾個体群の分析も行っている。さらに、現在までの結果をまとめて論文にする予定である。
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PLOS ONE
巻: 12 ページ: e0174388
10.1371/journal.pone.0174388
Applied Soil Ecology
巻: 117-118 ページ: 147~155
10.1016/j.apsoil.2017.04.016