これまで日本全域からのヤマトシロアリのサンプルを得ることができ、また本属の大きな分布境界はトカラ列島よりも北にあることが示唆されたので、トカラ列島、種子島、屋久島、三島村でのヤマトシロアリの形態観察及びDNA分析に着手した。その結果、少なくともトカラ列島の分布するヤマトシロアリは、形態的にも遺伝的にも奄美大島に分布するものに近いことが確認された。種子島、屋久島、三島村からのサンプルの解析を終えれば、日本におけるヤマトシロアリの分布の全概要が明らかになる。多くの生物の分布パターンの研究から、琉球産と本州列島産の分布の境界は、トカラ列島の悪石島と子宝島の間にある渡瀬線にあるというこれまでの仮説と異なる結果が得られたことから、屋久島と種子島の間に境界がある可能性があり、今後は、この仮説を確認しなければならない。 さらに、小笠原諸島に分布するヤマトシロアリ属の遺伝子解析、分布および形態的区別点を重点的に調べ、現在の分布状況を明らかにした。約10年前までは本州から侵入したと思われたR. speratusが分布していたが、現在は母島・父島ともに沖縄本島と同じハプロタイプを持つR. okinawanusしか確認されず、この結果を小笠原村にて報告し、意見交換を行った。 また、琉球産と本州列島産では種が異なることから、両者の間の湿度に対する加害特性を比較した。その結果、琉球産と本州列島産共に高い相対湿度では摂食量及び生存率が高く、低い相対湿度では摂食率も生存率も低かったが、種ごとに環境湿度による加害度や死滅にまでかかった日数や生存率が異なり、本州に生息する琉球産ヤマトシロアリであるカンモンシロアリが低い相対湿度への耐性があるという特筆すべき結果が得られた。
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