研究課題/領域番号 |
15K07482
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
柴田 勝 山口大学, 教育学部, 准教授 (30300560)
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研究分担者 |
野口 航 東京薬科大学, 生命科学部, 教授 (80304004)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | キサントフィル / カロチノド / 光合成 / 樹木 |
研究実績の概要 |
木本植物と草本植物の比較による樹木特異的なマルチストレス耐性機構について調べた。高等植物のnon-photochemica quenching (NPQ)は、キサントフィルサイクルに大きく依存していることが知られている。このサイクルは、熱放散に関係しておりDPS (de-epoxidation state)として表すことができる。一般的に葉へ光照射を行い数時間の暗処理により、DPS低下と共にNPQが解消される。実際にホウレンソウでは、光照射後の2時間暗処理によりNPQ,DPS共に低下していた。しかし、木本植物であるチャノキでは2時間の暗処理においてNPQが低下しているにもかかわらず、DPSの変化はほとんど見られなかった。これは、陸上高等植物のNPQの主成分がDPSであることに矛盾している。この応答が樹木に共通しているか調べるために草本植物8種、樹木6種で同様な実験を行なった。その結果、草本植物ではDPSと共にNPQが低下するのに対して、樹木では草本植物とは大きく異なるDPS,NPQ変化が見られた。この原因を明らかにするために、QAの還元速度、再酸化速度およびNPQ成分(fast, medium, slow)を比較したが、草本・樹木で大きな違いは見られなかった。暗処理における経時的なNPQ,DPS変化を調べたところ、暗処理直後は草本・樹木ともにNPQとDPSが低下するのに対して、その後、樹木はDPSのみ増減を繰り返していた。また、これらの応答が近縁種の草本植物、木本植物で同様に行われるかについて調べたところ、ほとんどの木本植物では、同様な応答を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本申請課題では、実際の木本植物の4種の色素サイクル+1種の光利用効率の制御、計5種の特異的な応答について調べるために、色素分析,光利用効率,タンパク質複合体の解析により、樹木特異的な色素サイクルが光合成に与える影響を明らかにすることを目指した。その中で、特にNPQに関する検証を行った。 H27年度に課題としていたタンパク質分析は、木本植物のチラコイド膜の可溶化が十分に行われず、データが得られなかった。しかし、一部の落葉樹で可溶化できることから、H27年度計画の研究を継続的に来年度の実験計画に組み入れている。このため、次年度の樹木特異的な反応の樹種間差や季節性を明らかにする実験を平行して行った。また、樹木でのVioサイクルが経時的に変化する応答が、実際に近縁種の草本・木本で樹木のみで見られるかについて検討も同時に行った。その結果、木本植物に特異的であることが示唆された。さらに、それらの応答が植物の生理的な意義を明らかにするために、生育光環境を制御し、調べたところ、光化学系IIのQAの酸化還元速度、NPQ誘導、蛍光リカバリーにも大きな違いは見られず、生理的な意味を見出すことはできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
エネルギー利用効率は、タンパク質のコンフォーメーション等に強く影響されることから、BN-PAGE、2次元電気泳動などによりタンパク質のスーパーコンプレックスや複合体成分(ウエスタンブロック)の違いをH27年度に可溶化できた樹種を中心に比較する。 樹木特異的な色素の組成変化を誘導する環境因子は、温度・光・水分など多岐にわたる。しかし、複数の色素変換系がどのようにストレス耐性に寄与しているのか不明である。このため、α-カロチンが蓄積しやすい樹木(モミ,ゲッケイジュ)を温度や光が異なる環境で生育させ、色素組成を含めた複数の変換系の量や比率を調べる。さらに、継続的に測定樹種を増やして樹種間の特異性の差異を明らかにする。
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