樹木特異的に存在しているa-Car(alpha-carotene)の生理的な理由を明らかにするために、遮光ネットにより光強度を調整した常緑広葉樹のスダジイの色素組成、クロロフィル蛍光を測定した。a-Carは、b-Car(beta-Car)と入れ替わる形で存在することから、a-Carが反応中心に入っていると考えられる。このために、open PSIIの量子収率(Fv’/Fm’)を測定したところ、全Carに占めるa-Carの割合(a-Car%)が、0.12~0.65にわたって一定であり、Car置換は反応中心での効率に変化を与えるものではなかった。しかし、openPSIIの割合の指標であるqPは、a-Car%が0.12~0.5で一定であり、0.5以上で低下し始めた。また、NPQはa-Car%が0.5以上で大きく上昇し、PSIIの量子収率も同時に低下した。a-Carの増加によりb-Carが低下し、xanthophyll cycle色素の割合が増えることがわかっている。これらのことから、0.5以上のa-Car%によるNPQの急激な上昇は、色素組成変化によりxanthophyll cycle色素の見掛け上の分子数が増加した結果だと考えられる。同様な現象が、アラカシにも見られた。これらのことから、a-Carは、色素の全体量を増やすことなく、Carを中心に置換させることでキサントフィルサイクル色素量(VAZ)の制御を行っていると考えられる。このクロロフィル当たりのVAZ量の増減は、ルテイン量の増減と逆相関していた。このことから、a-Carはb-Car置換により増加し、ルテイン量の減少と同様な変化によりVAZが増加することから、ルテイン結合部位にVAZが置換し、NPQ増加が誘導される可能性が示唆された。
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