研究課題/領域番号 |
15K07484
|
研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
屋 宏典 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 教授 (10177165)
|
研究分担者 |
稲福 征志 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 特命助教 (90457458)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | Isoprene / molecular mechanism / regulation / emission |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、熱帯樹木の温度依存的なイソプレン放出のオン-オフ調節をモデルとして、その温度センシング及びシグナリング系を解明することである。初年度はイソプレン放出のリアルタイム分析システムを用いて、人口気象室内の温度を段階的に上下させた場合のオオバイヌビワ及びハマイヌビワの葉におけるイソプレン放出と光合成関連パラメーター及び基質供給系であるMEP経路の遺伝子発現及び中間代謝産物変動のプロファイリングを実施した。 本年度はこの初年度の成果を進展させ、イソプレン合成酵素遺伝子のプロモーター領域の解析、ギガシーケンサーによるトランスクリプトーム解析、共発現解析、遺伝子オントロジー解析を実施し、これらを可視化するツール(Cytoscape)により統合して、温度変化に伴うシグナリングネットワークの解明を試みた。その結果、熱帯樹木のイソプレン合成酵素遺伝子の発現制御は植物ホルモンのシグナル伝達系及び日内変動調節関連遺伝子の変動を介することが示唆された。トランスクリプトーム解析の結果を確認するため、これらのシグナル伝達系の主要な遺伝子発現をqRT-PCRにより測定した。イソプレン合成酵素遺伝子の発現はエチレン、ジャスモン酸、アブシジン酸のシグナル伝達系及びPIFやLHYなどの日内変動関連転写因子の発現と強い相関を示し、ギガシーケンサーによる結果を確認できた。そして、プロモーター領域のエレメント配列もこれらの解釈を支持するものであった。また、熱帯樹木イソプレン合成酵素遺伝子のプロモーター領域にはポプラのプロモーター領域にはないW-Boxや低温感受性エレメント(LTRECOREATCOR15)のような熱帯樹木特異的なエレメントも存在しており、これらが熱帯樹木独特のイソプレン合成酵素遺伝子発現の制御に関わっていることも示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者等はイソプレン放出と光合成関連のパラメーターを同時にリアルタイムで計測できる分析システムを用いることにより、人口気象室内での条件としては12℃以下の温度でイソプレン放出が完全に停止し、これ以上の温度になると24時間以降にイソプレン放出が再開されることを既に見いだしている。初年度と次年度はこの知見に基づき上述のリアルタイムの分析システムを用いて、人口気象室内の温度を段階的に上下させた場合のオオバイヌビワ及びハマイヌビワの葉におけるイソプレン放出と光合成関連パラメーター及び各種代謝関連酵素活性及び遺伝子発現変動のプロファイリングを実施し、熱帯樹木のイソプレン合成の調節は温帯植物の場合とは明らかに異なり、主にIspSの発現を介することを明らかにした。さらに、IspS遺伝子の上流の制御系を含めたイソプレン合成・放出制御の全体的な分子機構を明らかにするため、前述と同様の温度変化条件下で、トランスクリプトームとMEP経路の中間代謝産物の解析を行った。IspSのプロモータ-配列、トランスクリプトームおよび代謝産物のネットワーク解析により、熱帯樹木のイソプレンの合成・放出制御には数種の植物ホルモンの情報伝達系と日内変動関連転写因子が複合的に関与していることが示唆された。
|
今後の研究の推進方策 |
29年度は最終年度であるため当初の計画どおり、イソプレン合成酵素遺伝子のプロモーターに結合する転写因子の解析及び28年度の補完研究を行う。以下の研究を計画している。 1 イソプレン合成酵素遺伝子の転写因子を制御する上流タンパク質の検索。28年度に得られているイソプレン合成酵素転写因子に関する情報をもとに、酵母を用いたツー ハイブリッド法によりさらに上流の制御因子の検索を行う。 2 イソプレン合成酵素遺伝子プロモーター活性の解析。申請者はイソプレン合成酵素遺伝子の塩基配列を基にゲノムウォーキング法によりイソプレン合成酵素のプロモーター領域の塩基配列の決定を終えている。29年度は、このプロモーター領域をモデル植物シロイヌナズナへと導入して転写活性を解析する(この際、レポーター遺伝子を組み込んだコンストラクトの作成は当実験室で行うが、組み換植物の作成は外部業者に委託予定)。本実験は当初28年度に実施する計画であったが、29年度に実施予定のパスウェイ可視化ツールによる温度センサーとシグナリング系の検索を28年度に優先して実施したため、最終年度に実施が先送りとなった。 3 植物ホルモンのイソプレン合成への影響。28年度にイソプレン合成は植物ホルモンによって制御されていることが示唆された。本実験は当初計画にはなかったが、28年度の成果を検証するため、熱帯樹木の葉に植物ホルモンを塗布し、イソプレン合成・放出への影響を比較検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究効率を上げるため29年度実施予定であったネットワーク解析を28年度の実験項目と同時に実施した。そのため、イソプレン合成酵素遺伝子プロモーター活性の解析が実施できず、レポーター遺伝子を組み込んだコンストラクトの作成及び外部業者に委託予定であった組み換植物の作成は費用に残が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
29年度に実施予定のイソプレン合成酵素遺伝子の転写因子を制御する上流タンパク質の検索と併せて、イソプレン合成酵素遺伝子プロモーター活性の解析に使用予定である。
|