材質が優れているチーク(Tectona grandis)は、雨期、乾期が明瞭な熱帯地域で植栽されているが、降雨に季節性の無い湿潤熱帯気候であるマレーシアでは一般的に植栽に適していないと言われてきたが実証データはほとんどなく、チークの成長を左右する環境因子も不明であった。本研究では、半島マレーシアにおいて様々な地域に試験的に植栽された14~46年生のチークの個体サイズや材密度を自生地域であるタイの人工林と比較し、どの程度成長が異なるのか明らかにした。マレーシア半島部の6州の計6林分に調査区を設定し、毎木調査及び材の採取をおこなった。植栽適地から不適地を含むタイのチーク人工林で得られた既報の結果と比較すると、今回の6林分の幹の平均胸高直径(DBH)、平均樹高、優勢木の樹高(上層樹高)は、タイの平均値に近い値であった。林冠を構成する個体の幹の形状比(樹高と胸高直径の比;H/DBH)を比較すると、タイよりもマレーシアの6林分は低く、樹高に対するDBHが高かった。タイでは林齢が増加するとH/DBH比が低くなった。タイではチークを高密度に植栽し、その後間伐をするので立木密度が減り空間があくためにH/DBH比が減ると考えられた。一方マレーシアでは調査区間でH/DBH比に有意差はなく、幼齢期から樹高に対するDBHが高いという、タイのチークとは異なる成長特性であった。材密度はタイで報告されている範囲にあり、林齢が高い林分ほどチークの材密度も高かった。以上の結果から、植栽不適地とされてきた半島マレーシアでも、本研究をおこなった林分に関してはタイのチーク人工林とH/DBH比を指標とした成長特性は異なるが、同程度の直径成長や樹高成長、材密度が期待できると考えられた。したがって、明確な乾季の有無はチークの成長には大きく影響せず、半島マレーシアがチークの植栽不適地であるとは言えないことが示唆された。
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