本課題では、近年枯死メカニズムの主要因として提案されている通水阻害と炭水化物欠乏について,温暖化による気温上昇幅が大きい冷温帯の主要造林樹種を用いて明らかにすることを目的とした。北海道の主要造林樹種であるカラマツとトドマツを対象に,針葉と幹の乾燥ストレスによるキャビテーション感受性を調べた所,針葉の方が幹よりも高い水ポテンシャルで通水機能を失うこと,針葉のキャビテーション感受性には樹種間差が認められない一方で,幹ではカラマツの方がより高い水ポテンシャルで通水機能を失うことが明らかになった。 急激で厳しい土壌乾燥ストレスを(水ポテンシャルが-7MPaに達するまで)与えた場合,カラマツ,トドマツともに,気孔閉鎖と針葉の通水機能障害が同時発生的に生じ,それからかなり遅れて幹の通水機能障害が生じた。再灌水しても回復しないときの水ポテンシャルは,両樹種ともに幹の通水機能が88%まで低下するときの水ポテンシャルと同等の値を示し,針葉の通水機能とは関係が認められなかった。また,樹体内の炭水化物濃度は,両樹種ともに乾燥ストレスによって枯死する直前には,幹のデンプン濃度が低下する一方で,幹の糖濃度が増加し,炭水化物全体としては乾燥ストレスを課す前と変化が認められなかった。このことから,急激な厳しい乾燥ストレスに対しては,幹の通水阻害が主要な枯死要因となっており,炭水化物欠乏は生じていないことが明らかとなった。 これらの結果をまとめると、渇水による枯死要因は、主として幹の通水阻害(幹通水性の88%低下)である一方で、炭水化物のうち幹の糖は通水阻害の回復過程に関わっており、乾燥ストレスの経過期間によって通水阻害の回復のしやすさが変化する可能性が示唆された。
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