研究課題/領域番号 |
15K07494
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
宮本 尚子 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所林木育種センター, 主任研究員等 (30370844)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 心材色 / 赤心 / 黒心 / カリウム / アソシエーション |
研究実績の概要 |
スギは心材色には変異が大きく、赤心系統と黒心系統があるが、黒心系統は化粧性・運搬・乾燥に難があるとされている。伐採前に赤心と黒心を判別することができれば、伐採・乾燥・利用計画の適切な立案を通して林産業の活性化に貢献することができる。そこで、赤心・黒心の簡易判別および早期判別を目指し、遺伝および環境の影響を受けて材の着色に何らかの役割を果たしている可能性の指摘されているカリウム量(心材に存在するカリウム量が多いものほど心材色が黒い傾向がある)に着目し、葉や発根部などの材を破壊することなく計測できるカリウム量と心材色との関連性を評価する。 まず、すでに取得されている心材色(単一の苗畑で育成した約30年次の幹における表色値)のデータに基づいて、典型的赤心および黒心系統を10系統ずつ選んでさし木増殖を行い、異なるカリウム条件で育成した。また、典型的赤心および黒心系統について、20年間暗所に保存してあった円盤の心材部および、葉、さし木の発根部で検出されるカリウム量に関するデータを取得した。心材部のカリウム含量に関しては心材色との相関があったが、針葉や根でのカリウム含量とは明確な相関が見られなかった。加えて、関東育種基本区の精英樹380系統について、心材色のL*値とすでに取得されている約5,000座のSNP遺伝子型 (Uchiyama et al.(2014))を用いてRのパッケージEMMAによりアソシエーション解析を行った。単回帰モデル、分集団を考慮した(Q)モデル、分集団と家系構造を考慮した(QK)モデルの3つのモデルを用いて解析し、いくつかの遺伝子座では心材色と関係のある可能性が示される結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験材料である典型的赤心および典型的黒心系統のスギさし木苗に関しては、林木育種センター本所と連携することで十分な量を増殖することができた。加えて過去に伐採され、今回増殖したものと同じクローンの胸高部位の円盤についても林木育種センター本所に保存されていたものを原子吸光分析の試料として使用することができた。また、実験計画については宇都宮大学、解析については森林総合研究所本所、原子吸光分析については森林総研東北支所と連携して研究をすすめることができた。さらに、原子吸光分析に関しては粉砕までの段階を林木育種センター東北育種場で進めることができるよう、実験室および機材を整備することができた。このように研究計画については効率的かつ確実に進めることができたと考えている。 研究成果に関しては、過去にとられた心材色に関するデータを精査し、とりまとめた。また今回新たに心材部および針葉・発根部でのカリウム含有量のデータを取得することができた。さらに、心材色データと過去にとられた約5,000座のSNPの遺伝子型データについてアソシエーション解析を行うことができた。これらの成果については第79回および第80回日本植物学会大会でポスター発表を行っている。また、学術誌Silvae Geneticaに原著論文を投稿し、掲載されている。 以上のことからおおむね順調に進展しているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では典型的赤心系統および典型的黒心系統について、スギさし木苗を作成し、現在までの3年間、異なる3つのカリウム条件下でポットを用いて育成してきた。さし木苗木が大きくなり、ポットでの育成の継続が難しくなってきたので、平成30年度、東北育種場内の試験地に定植し、今後の試験材料として有効活用する予定である。 これまでスギさし木苗に対して行ってきた異なる3つのカリウム条件下での育成を継続させるため、定植予定の試験地についても、3つのカリウム条件に対応させた3つのブロックに分割し、定期的に今まで行ってきたものと対応したカリウム施肥を継続する予定である。またブロック内をさらに4つの小ブロックに区切り、この小ブロック内では系統がランダムな配置になるように植栽することで、ブロック内の微地形・微環境の影響を排除して、心材色とカリウム環境の影響に関するデータが将来的に取れる設計とする予定としている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画時には業者に外注する予定であった原子吸光分析が、森林総合研究所東北支所の協力を得ることができ、安価に行えるようになったため、研究費に余剰が生じた。そのため、余剰の研究費については、研究期間を1年延長して、現在ポット内で育成しているスギさし木苗の試験地への定植と育成等に充てるものとした。定植のための試験地については昨年度、林木育種センター東北育種場内に確保済みである。 材料である約200個体のスギ苗木の定植にあたり、個体分のいぼだけ、系統表示ラベル、保水材、わら縄、定植のための人件費が必要と見込んでいる。さらに、今回確保できた試験地では秋から冬にかけての風が非常にきつく、寒風害が発生して材料が枯死する恐れがあるため、試験地を囲むような防風ネットの設置についても検討している。この防風ネットの資材および設置のための人件費についても使用計画として見込んでいる。
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