研究課題/領域番号 |
15K07501
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研究機関 | 国立研究開発法人 森林総合研究所 |
研究代表者 |
大塚 生美 国立研究開発法人 森林総合研究所, 東北支所, 主任研究員 (00470112)
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研究分担者 |
林 雅秀 山形大学, 農学部, 准教授 (30353816)
餅田 治之 (一財)林業経済研究所, 研究部, 名誉教授 (80282317)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 林業経営 / 森林信託 / 森林投資 / 内部収益率 / 林業補助金 / 林業税制 / 森林法制 / 世代間衡平 |
研究実績の概要 |
近年、我が国では長期にわたる立木価格の低迷や高齢化により森林所有者の経営からの撤退が顕在化し、森林の機能が発揮されにくい状況にある。本研究課題にかかわる先行研究をみると、外国資本による林地取得、森林・林業関連法制度の改正、海外における機関投資家による森林投資の活発化等を契機として、森林投資や森林信託研究が再燃しているものの、森林科学の専門領域においてもまだ充分にその性格の検証がなされていない。しかし、地球規模の環境問題への対応、我が国における縮小社会段階への移行や財政事情を前に、森林整備の担い手と費用負担のあり方は、森林経営に内在する公共的性格と私的性格を紐解く重要な課題である。これまでの我々の研究では、林業経営の信託では,第1に再造林投資が可能な内部収益率を達成していることが明らかになっている。だが,そのための制度的背景、初期投資割合が大きい育林コストの内実や経営収支等、まだ十分な実態把握と理論化が行われているとは言い難い。そこで、本研究では,我が国の林業経営の世代間信託の実現に向けて、東北地方をモデルとして、海外比較により、我が国の独自性と共通性を解明し信託化実現の条件を考えることを目的とした。課題を明らかにする上で、(1)関連文献収集整理、分析、(2) 欧米日比較による日本の独自性の抽出、(3) 海外における林業経営の信託化技術の類型化、(4)東北地方をモデルとする育林投資縮小メカニズムの解明と林業経営信託化技術の検討の4つの枠組みを設定した。初年度にあたる平成27年度は、これまでの研究蓄積に新たな動向を加えて整理・分析を行うとともに、信託化の基礎的条件となり得る事項に関する実務者との意見交換を実施した。現在のところ、①経営規模の拡大、②人工林育成林業を専門とする新たな林業経営組織,③林業経営を目的とする所有再編、以上が林業経営の世代間信託の条件として指摘できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々の研究チームは、既に、日本の森林信託は制度上は財産信託の性格を持つこと、一方で、アメリカを中心とする欧米の森林信託は、金融市場における投資の性格を持つ信託に展開していることを明らかにしている。また、これまでアメリカ・ニュージーランドで顕著に展開していた森林投資信託が世界で急速に拡大していること、わが国では素材生産業、原木市場、木材加工業などの原木を必要とする事業体の中には、事業規模を拡大するとともに、林地を積極的に購入し、林業経営までをも行う事例や、林地の購入まではしないまでも、規模のメリットを生かし、いわば信託的な管理受託も行う例もみられるようになっている。そこで、初年度にあたる本年度は、これまでの研究蓄積に以上の新たな動向を加えて整理・分析を行った。あわせて、「造林補助金」、「信託制度」等わが国における信託化の基礎的条件となり得る事項に関する実務者との意見交換を実施した。現在のところ、主に、①経営規模の拡大、②人工林育成林業を専門とする新たな林業経営組織,③林業経営を目的とする所有再編、以上が林業経営の世代間信託の条件として指摘できた。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、機関投資家による森林投資は、アメリカ、ニュージーランドにおいて高い成果をあげているが、小規模森林所有や公有林を中心とした所有形態から成る欧州での展開は困難とされてきた。そうした中,最近のFAOのレポートでは、その困難とされてきた欧州においても機関投資家による森林投資が拡大傾向にあることが指摘され,さらに、新興国の今後の動きにも注目している。本研究課題では、欧米日比較によって、日本における世代間衡平に寄与する林業経営を検討することを目的としているため,当初は初年度に海外での本調査を予定していたが、機関投資家による森林投資は非常に早いスピードで世界で展開したこと、国内でも林業経営の新たな動きが活発化する兆しがみられるようになったことから、初年度は、これまでの欧米日における我々の研究蓄積に新たな情報を加え、各国の信託的取組について共通性と独自性を仮定した。注目すべき点として、機関投資家による再造林投資が他の所有形態よりも高いことも確認された。そこで、次年度以降は,それらの検証を目的として、欧米における現地調査を実施するとともに、わが国の新たな林業経営の事例調査を継続し考察を深める。次年度は、3回程度の研究会を開催し、東北地方をモデルとする育林投資縮小メカニズムの解明と林業経営信託化技術の仮説を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、海外調査は1年目の予定であったが、世界の森林投資信託の動向が急激に拡大したこと,国内でも信託的事例が展開しつつあることから、1年目は,国内調査ならびに情報収集と分析を行ない、海外調査を次年度以降としたため。
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次年度使用額の使用計画 |
主な研究費の使用は、①年3回程度の研究会への研究メンバー全員の旅費(40万円)、③資料等購入(50万円)、④国内外調査旅費(150万円)、⑤解析ソフト等備品(10万円),⑥作業補助アルバイト(30万円)。
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