研究課題/領域番号 |
15K07508
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
半 智史 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (40627709)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 心材形成 / 放射柔細胞 / 細胞死 / 自己分解酵素 / 形質転換体 / ショットガンプロテオーム解析 / nano-LC-MS/MS / ドロノキ |
研究実績の概要 |
本研究では、実験1:放射柔細胞の細胞死過程における発現タンパク質の網羅的解析、および実験2:放射柔細胞における自己分解酵素の蓄積および輸送に関する解析を行うことにより、樹木特有の長命細胞である放射柔細胞の独自の細胞死発現機構を明らかにすることを目的としている。本年度は、網羅的手法であるショットガンプロテオーム解析によって、放射方向における放射柔細胞の生理機能の変化を明らかにし、同時に細胞死を特徴付ける自己分解酵素の探索を行った。また、自己分解酵素を可視化するためのポプラ形質転換体の作出に着手した。 ショットガンプロテオーム解析には、ドロノキ(Populus suaveolens)2個体より採取した試料を用いた。当年形成木部を除いた辺材を三分割して外層、中央部、内層とし、それぞれからタンパク質を抽出し、nano-LC-MS/MSにより分析を行った。辺材より抽出されたタンパク質についてショットガンプロテオーム解析を行った結果、783種のタンパク質が同定された。これらについて機能分類を行い、タンパク質の存在量に基づいて辺材中の各部位における機能ごとのタンパク質の割合を算出した。その結果、辺材中において各機能のタンパク質の全体に占める割合が変化していることが明らかになった。顕著に変動したと分類されたタンパク質は240種であり、同定されたタンパク質のうち約30%を占めることが明らかになった。加えて、変動したタンパク質には、辺材外層あるいは内層で最大値あるいは最小値を示すものが多かった。したがって、辺材外層と内層では、各機能のタンパク質の全体に占める割合だけではなく、豊富に存在するタンパク質の種類も変化しているといえる。 以上の結果より、放射柔細胞は、放射方向における位置により果たす役割が異なると考えられる。さらに、辺材内層において特徴的に増加する自己分解酵素を見つけることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では計画に沿った形でドロノキ放射柔細胞のショットガンプロテオーム解析を実施し、放射方向における放射柔細胞の生理機能の変化および放射柔細胞の細胞死を特徴付ける自己分解酵素を明らかにすることができた。また、自己分解酵素を可視化するためのポプラ形質転換体を作出し、現在育成中である。上記のように当初の計画を達成しているため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
残りの研究期間において、放射柔細胞の細胞死を特徴付ける自己分解酵素の蓄積および輸送に関する以下の3つの項目について研究を進める予定である。 1. ポプラ形質転換体による自己分解酵素の動的挙動に関する解析系の構築:自己分解酵素の細胞内での蓄積あるいは細胞間での輸送の有無を解析するためのポプラ形質転換体を作出し、放射組織が十分に発達して解析可能な個体サイズになるまで育成する。 2. ポプラ形質転換体を用いた自己分解酵素の動的挙動に関する解析:蛍光タンパク質と自己分解酵素を融合させたタンパク質を発現させたポプラ形質転換体の放射柔細胞について共焦点レーザ走査顕微鏡を用いて経時的解析を含めた詳細な観察を行う。導入する蛍光タンパク質は光変換の可能なKaedeやDendra2などの蛍光タンパク質を予定しており、レーザの照射により特定の細胞に存在する蛍光タンパク質を緑色から赤色に変化させ、赤色の蛍光タンパク質がどこに局在し、隣接した細胞に向かって移動するのかどうかを明らかにする。 3. インタクトな組織を用いた免疫染色による自己分解酵素の局在に関する解析:既知の細胞死関連の自己分解酵素あるいは実験1で選抜された細胞死に関与すると考えられる自己分解酵素の局在性について、塩基配列情報からペプチド抗体を作製し免疫染色を行い、共焦点レーザ走査顕微鏡や透過電子顕微鏡で解析することで明らかにする。既に心材を形成している成木の放射柔細胞の免疫染色により、形質転換体を用いて得られた解析結果と合わせて、インタクトな組織における自己分解酵素の挙動を理解する上で重要な局在に関する情報を得る。 以上、放射柔細胞における自己分解酵素の発現およびその挙動に着目した細胞生物学的研究を進めることで、樹木特有の長命細胞である放射柔細胞がもつ独自の細胞死発現機構を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
装置の故障により実施できなかった実験が存在するため。
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次年度使用額の使用計画 |
装置の修理が終了し次第、予定していた実験を進める。
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