本研究では、実験1:放射柔細胞の細胞死過程における発現タンパク質の網羅的解析、および実験2:放射柔細胞における自己分解酵素の蓄積および輸送に関する解析を行うことにより、樹木特有の長命細胞である放射柔細胞の独自の細胞死発現機構を明らかにすることを目的としている。本年度は、自己分解酵素を可視化するためのポプラ形質転換体の解析を進めた。 短命の木部細胞である管状要素の自己分解過程において重要な役割を果たす自己分解酵素であるXylem Cysteine Peptidase(XCP)と相同性をもつポプラのXCP2Bをターゲットとして形質転換を行い、1ヶ月in vitroにおいて育成させたポプラの葉、茎、根を解析に用いた。まずXCP2Bのプロモーターに緑色蛍光タンパク質(GFP)およびβ-グルクロニダーゼ(GUS)を連結した遺伝子(XCP2BPro::GFP-GUS)を導入したポプラ(Populus tremula x P. tremuloides)を用いて解析を行った。葉や根においては、維管束においてGUS活性が認められたことから、シロイヌナズナのXCPの局在と類似しているといえる。茎においては、二次師部、形成層および二次木部が発達しているのが観察された。二次木部におけるGUS活性は、木部繊維および放射柔細胞において観察された。GFPの観察においても同様の局在が認められた。続いて、XCP2BのプロモーターにXCP2Bおよび光変換型蛍光タンパク質のDendra2を連結した遺伝子(XCP2BPro::XCP2B-Dendra2)を導入した形質転換体についても同様に解析を行ったが、Dendra2の蛍光シグナルを観察することができなかった。目的遺伝子のゲノムへの挿入については確認できたため、解析した個体において導入遺伝子の発現量が低かった可能性が考えられる。
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